なぜ、人生の節目に訪れる夫婦は加賀温泉郷に惹きつけられるのか
子育てという大きな役目を終え、ふと隣を見れば、少しだけ髪に白いものが混じったパートナーがいる。慌ただしく過ぎた日々を労い、そして、これから始まるふたりの時間を確かめ合う旅。そんな特別な旅先に、多くの賢明な夫婦が「加賀温泉郷」を選びます。
そこにあるのは、単なる温泉の癒しだけではありません。加賀百万石の歴史が育んだ絢爛たる文化の香り、北大路魯山人をはじめとする芸術家たちを魅了した深い美意識、そして、日本海の海の幸と加賀野菜が織りなす、ここでしか味わえない食の豊かさ。
山代、山中、片山津、粟津。それぞれに趣の異なる湯の町が、成熟した大人の心に静かに寄り添ってくれるのです。この記事では、そんな加賀温泉郷の中から、ただ宿泊するだけではない、夫婦の時間を深く紡ぎ直すための「露天風呂付き客室」を持つ上質な宿を5軒、厳選してご紹介します。
瑠璃光(山代温泉)
~星の光、月の光、そして湯の光。五感を満たす温泉リゾート~
■おすすめポイント(瑠璃光)
- 最上階・特別フロア「星の棟」の露天風呂付き客室
- 趣の異なる5つの貸切露天風呂と2つの大浴場で湯めぐり三昧
- 加賀野菜や日本海の幸を堪能できる多彩な食事処
- 伝統芸能「山代大田楽」の上演など館内アクティビティが充実
- 加賀温泉駅から送迎バスで約10分というアクセスの良さ
五彩の光がきらめく、広々とした空間。瑠璃光は、温泉宿の情緒とリゾートホテルの快適さを併せ持つ、大人のための贅沢な舞台です。一歩足を踏み入れれば、そこは日常を忘れさせてくれる華やかな別世界。充実した館内施設は、まるでひとつの街のよう。夫婦それぞれが思い思いに過ごし、またふたりの時間に戻ってくる。そんな自由で豊かな滞在が叶います。
客室
最上階に位置する特別フロア「星の棟」。その客室に備えられた露天風呂は、まさに空に浮かぶ特等席です。加賀平野の街並みや遠くに連なる白山連峰を望む開放的な空間は、ふたりのために用意されたプライベートな展望台。和の落ち着きとモダンな機能性が見事に調和した室内で、心からのくつろぎを感じることができます。
客室露天風呂の時間
漆黒の夜空に星が瞬き始めると、眼下の街の灯りがまるで宝石のように輝きだします。ふたりきりの露天風呂に身を沈めれば、心地よい湯の温もりが日々の疲れをそっと溶かしていく。
グラスに注いだ冷たい加賀の地酒を片手に、これまで歩んできた道のりを静かに語り合う。あるいは、何も話さず、ただ同じ星空を見上げる時間もいい。ここは、言葉以上に多くのことを分かち合える、夫婦のためだけの聖域なのです。
共用風呂
瑠璃光の真骨頂は、館内にいながらにして「湯めぐり」が楽しめること。趣向を凝らした5つの貸切露天風呂は、ふたりのプライベートな時間を大切にしたいという願いを叶えてくれます。檜の香りに包まれる湯、野趣あふれる岩風呂など、その日の気分で選ぶ楽しみも格別です。
広々とした大浴場では、手足を思い切り伸ばして山代の古湯を堪能。湯上がりには、涼やかな風が心地よい湯上がり処で待ち合わせ。次にどの湯に入ろうかと相談する時間さえも、心躍る旅の思い出に変わります。
食事
加賀の食文化を余すところなく味わえるのも、この宿の大きな魅力です。メインダイニング「仁三郎」では、加賀野菜や橋立漁港で水揚げされた新鮮な魚介類をふんだんに使った会席料理がいただけます。
オープンキッチンのカウンター席では、料理人が腕を振るう姿を間近に見ながら、出来立ての味に舌鼓を打つことも。一皿一皿に込められた料理長の想いや、食材の物語に耳を傾けながらいただく食事は、単なる腹ごしらえではなく、心を満たす豊かな体験となるでしょう。
サービス
ラウンジのソファに身を沈め、窓の外に広がる日本庭園を眺める。
チェックイン後に供される抹茶と和菓子が、旅の疲れを優しく癒してくれる。
「夜にはロビーで『山代大田楽』という伝統芸能が見られるそうですよ」
妻がパンフレットを指差しながら、楽しそうに微笑む。
「ほう、それは面白そうだ。夕食の後にでも行ってみるか」
宿の中を散策するだけで、次々と楽しみが見つかる。
まるで、ふたりの新しい好奇心を試されているようだ。
こんな50代夫婦におすすめ
- 旅館の情緒とホテルの快適さの両方を求める夫婦
- 館内でアクティブに過ごし、多彩な体験を楽しみたい夫婦
- 記念日など、少し華やかな雰囲気で特別な日を祝いたい夫婦
アクセス情報
- 住所: 〒922-0295 石川県加賀市山代温泉19-58-1
- アクセス: JR加賀温泉駅より送迎バスで約10分(要予約)
- 送迎: あり
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
広い館内を散策していると、ふと、子どもたちが小さかった頃の家族旅行を思い出す。
あの頃は、いつも子どもたちの手を引き、彼らの笑顔を追いかけるのに必死だった。
「あなた、覚えている?あの子が迷子になりかけて、大騒ぎしたこと」
妻がくすくすと笑いながら言う。
「ああ、あったな。お前、顔が真っ青だったじゃないか」
懐かしい思い出話に、自然と笑みがこぼれる。
今、隣を歩くのは、一番長く連れ添ったパートナーだけ。
手を引く必要はないけれど、その歩幅は、いつの間にかぴったりと寄り添っている。
広大な宿の中で、ふたりきりの時間を見つける。
それは、失われた時間を取り戻すのではなく、これから始まる時間を確かめるための、静かで、贅沢な宝探し。
瑠璃色の光が、そっとふたりを照らしている。
たちばな四季亭(山代温泉)
~北大路魯山人の美学と加賀の粋が宿る、一期一会の場所~
■おすすめポイント(たちばな四季亭)
- 全18室という静謐さと、きめ細やかなおもてなし
- 北大路魯山人ゆかりの宿として、館内の随所に本物の芸術が息づく
- 器の美しさまでこだわり抜いた、目と舌で味わう本格懐石
- 「古総湯」「総湯」といった外湯めぐりにも便利な立地
- 歴史と文化の香りに包まれ、静かな時間を過ごせる大人の隠れ家
山代温泉の湯の曲輪(ゆのがわ)に佇む「たちばな四季亭」は、ただの宿ではありません。稀代の芸術家・北大路魯山人が愛した美意識が、今なお静かに息づく場所。全18室という贅沢な空間は、日常の喧騒を忘れさせ、ふたりの時間を濃密なものへと変えてくれます。本物がわかる大人にこそ、その真価がわかる宿です。
客室
数寄屋造りの客室は、日本の伝統建築の粋を集めた端正な空間。露天風呂付きの客室では、手入れの行き届いた坪庭を眺めながら、誰にも邪魔されることなく山代の名湯を独り占めできます。華美な装飾はありませんが、柱の一本、障子の桟ひとつにまで宿の美学が貫かれており、その凛とした空気が心を静めてくれます。
客室露天風呂の時間
朝、障子を開けると、露に濡れた庭の緑が目に鮮やか。鳥のさえずりだけが聞こえる静寂の中、湯船にそっと身を沈めます。檜の香りがふわりと立ち上り、柔らかな湯が身体の芯まで染み渡っていく。
ここで交わす言葉は、多くなくてもいい。お互いが感じている心地よさを、ただ静かに共有する。それは、長年連れ添った夫婦だからこそできる、無言の対話。魯山人が愛したであろう、この庭の景色を眺めながら、ふたりの感性が静かに共鳴し合う時間です。
共用風呂
全18室というこぢんまりとした宿だからこそ、大浴場もまた、落ち着いたプライベートな雰囲気に満ちています。広々とした内湯と、開放的な露天風呂。どちらも、華美な装飾を排し、湯そのものの良さをじっくりと味わえるように設えられています。他の宿泊客と顔を合わせることも少なく、まるで自分たちだけのために用意されたかのような贅沢な空間で、心ゆくまで湯浴みを楽しめます。
食事
この宿の食事は、芸術鑑賞にも似た体験です。料理が盛られるのは、魯山人の作品をはじめとする九谷焼や山中塗の名品の数々。器が料理を引き立て、料理が器を輝かせる。その見事な調和は、まさに一期一会。
加賀の山海の幸を最高の形で味わってほしいという料理長の情熱が、一品一品からひしひしと伝わってきます。ふたりで器を愛で、繊細な味わいに感動し、加賀の食文化の奥深さに触れる。それは、忘れられない記憶として心に刻まれるはずです。
サービス
「こちらの器は、魯山人が若い頃に手掛けたものだそうでございます」
料理を運んできた仲居さんが、そっと教えてくれる。
「へえ、これが…」
夫が感嘆の声を漏らし、器を静かに持ち上げる。
その手つきは、まるで宝物に触れるかのようだ。
「美しいだろう」
「ええ、本当に。お料理が、ますます美味しく感じられますね」
押し付けがましくない、さりげない説明。
それが、この宿での体験を何倍にも豊かなものにしてくれる。
本物だけが持つ、静かな説得力がここにはある。
こんな50代夫婦におすすめ
- 本物の芸術や文化に触れる、知的な旅を好む夫婦
- 喧騒を離れ、静かで落ち着いた環境で過ごしたい夫婦
- 食事の時間そのものを、旅のハイライトとして楽しみたい夫婦
アクセス情報
- 住所: 〒922-0242 石川県加賀市山代温泉万松園通16
- アクセス: JR加賀温泉駅よりタクシーで約10分
- 送迎: なし
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
夕食の席。
目の前に置かれた煮物椀の、息をのむような美しさに言葉を失う。
艶やかな漆黒の椀に、繊細な金蒔絵。
蓋をそっと開けると、立ち上る湯気と共に、上品な出汁の香りが広がった。
「すごいな…」
普段は口数の少ない夫が、ぽつりと呟く。
「器も、料理も、まるで一つの作品のようだ」
「本当ですね。食べるのがもったいないくらい」
私たちは、しばらく無言でその一椀に見入っていた。
モノが溢れる時代に生き、多くのものを見てきたつもりだった。
けれど、本当に心を満たすのは、こういう静かな感動なのだと、この場所が教えてくれる。
お互いの価値観が、すっと重なり合うのを感じる。
この美しさがわかるあなたで良かった。
そう、心の中で静かに呟いていた。
花紫(山中温泉)
~鶴仙渓の murmuring に耳を澄ます、オーダーメイドの美食宿~
■おすすめポイント(花紫)
- 全室が鶴仙渓に面し、四季折々の渓谷美を独り占めできる
- 好きな料理を好きなだけ選べる、革新的な「アラカルト懐石」
- 渓谷を見下ろす絶景の展望露天風呂「ひらひら」
- 洗練された和モダンな空間と、行き届いたおもてなし
- ミシュランガイドで星を獲得し続ける、確かなクオリティ
山中温泉のシンボル、鶴仙渓。その最も美しい場所に「花紫」はあります。窓の外に広がるのは、一枚の絵画のような絶景。せせらぎの音、鳥の声、木々の葉が風にそよぐ音。自然が奏でる音楽が、最高のBGMとなります。そして、この宿のもう一つの主役が「食」。自分たちで献立を創り上げるという、新しい美食体験が待っています。
客室
すべての客室が、鶴仙渓に面して作られています。大きな窓から見えるのは、緑豊かな渓谷と、清らかな水の流れ。露天風呂付きの客室を選べば、その絶景を湯に浸かりながら堪能するという、この上ない贅沢が味わえます。モダンで洗練されたインテリアは、美しい自然の景色を邪魔することなく、心地よい空間を演出しています。
客室露天風呂の時間
眼下には、エメラルドグリーンに輝く鶴仙渓の流れ。頬をなでる風は、森の香りを運んできます。ふたりきりの露天風呂は、まるで自然の中に溶け込んでいくような感覚を覚える場所。
せせらぎの音に耳を澄ましていると、日々の悩みや焦りが、清らかな水に洗い流されていくようです。「きれいだね」「ああ、本当に」。そんな短い言葉を交わすだけで、心は満たされる。自然の雄大さの前では、人もまた素直になれるのかもしれません。
共用風呂
最上階にある展望露天風呂「ひらひら」からの眺めは、まさに圧巻の一言。その名の通り、まるで蝶のように空に舞い上がり、鶴仙渓の絶景を見下ろしているかのような気分にさせてくれます。さえぎるもののない大パノラマは、圧倒的な開放感。昼間は陽光に輝く緑を、夜は月明かりに照らされる幽玄な渓谷を眺めながら、山中の名湯に身をゆだねる時間は、旅のハイライトとなるに違いありません。
食事
花紫での夕食は、感動的な体験です。それは「アラカルト懐石」という独自のスタイル。前菜からデザートまで、約50種類ものメニューの中から、自分たちの好みで自由に献立を組み立てることができるのです。
「あなたはお造りが好きだから、これはどう?」「私はこの加賀野菜の天ぷらが気になるわ」。メニューを囲んでふたりで相談する時間は、まるでこれからの人生計画を立てるように、楽しく、創造的。料理長の確かな腕によって仕上げられた一品一品は、どれを選んでも期待を裏切らない逸品揃いです。
サービス
「こちらののど黒、美味しそうですね。でも、このお肉も捨てがたい…」
妻が楽しそうに、そして真剣にメニューとにらめっこしている。
「お客様、よろしければ、のど黒は塩焼きに、お肉は少量ずつ両方お持ちすることもできますよ」
担当のスタッフが、にこやかに提案してくれる。
「まあ、そんなこともできるんですか」
「はい、おふたりのための献立でございますから」
その一言が、私たちの心を解きほぐす。
選ぶ楽しみと、それを叶えてくれるおもてなし。
最高の贅沢は、こんな細やかな心遣いの中に宿っている。
こんな50代夫婦におすすめ
- 美しい自然の景色の中で、心からリラックスしたい夫婦
- 食にこだわりがあり、自分たちの好みに合わせた食事を楽しみたい夫婦
- ありきたりではない、少し特別な体験を求める夫婦
アクセス情報
- 住所: 〒922-0128 石川県加賀市山中温泉東町1-ホ17-1
- アクセス: JR加賀温泉駅より送迎車で約20分(要予約)
- 送迎: あり
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
アラカルト懐石のメニューを前に、私たちは久しぶりに本気で頭を悩ませていた。
まるで、若い頃、初めてのデートの行き先を決めるみたいに。
「俺はやっぱり魚だな。このお造りの盛り合わせは外せない」
「私は、加賀野菜の治部煮が食べてみたいわ」
お互いの好みを主張し合い、譲り合い、そして一つの献立を創り上げていく。
それは、私たちがこれまで共に歩んできた人生の縮図のようだった。
違う人間同士が、少しずつ歩み寄り、一つの家族という形を創ってきた。
出来上がった献立は、きっと他の誰もが選ばない、私たちだけの物語。
一品一品運ばれてくる料理を味わいながら、私たちは、自分たちが紡いできた時間の尊さを、改めて噛みしめていた。
胡蝶(山中温泉)
~女性料理長の感性が彩る、優美な時間と加賀モダン~
■おすすめポイント(胡蝶)
- 女性料理長による、繊細で美しい加賀会席
- 全7室のみという、究極のプライベート空間
- 到着時の加賀棒茶の香りと、細やかなおもてなし
- 鶴仙渓の遊歩道「こおろぎ橋」に近く、散策に最適
- 優しく、温かな雰囲気に包まれて過ごしたい夫婦に
山中温泉のメインストリートから少し入った、静かな場所に佇む「胡蝶」。わずか7室しかないこの宿は、まるで大切な友人の別邸を訪れたかのような、温かく、親密な空気に満ちています。扉を開けると、ふわりと香る加賀棒茶。その香りに迎えられた瞬間から、日常の鎧がするりと解けていくのを感じるはず。女性ならではの感性が随所に光る、優美な隠れ家です。
客室
7室の客室は、それぞれに趣が異なります。露天風呂付きの客室は、和の伝統美と現代的な快適さが融合した、心地よい空間。過度な装飾はなく、シンプルながらも上質な調度品が、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。ここで過ごす時間は、ただひたすらに穏やか。ふたりだけの静かな世界に浸ることができます。
客室露天風呂の時間
柔らかな山中の湯が、信楽焼の湯船にたっぷりと満たされています。聞こえてくるのは、遠くのせせらぎと、風の音だけ。華やかな絶景はありませんが、その代わりに、心の奥深くまで満たしてくれるような、深い静けさがあります。
何も考えず、ただ湯の感触と木の香りに身をゆだねる。隣にいるパートナーの穏やかな寝息が聞こえてくるかもしれない。それは、お互いが心からリラックスしている証拠。言葉はいらない、ただそこにいるだけで満たされる。そんな、慈しみに満ちた時間が流れていきます。
共用風呂
こちらの宿には、大浴場などの共用風呂は用意されていません。それは、全客室に備えられた専用の温泉風呂で、誰にも気兼ねすることなく、ふたりの時間を心ゆくまで楽しんでほしいという、宿の哲学の表れです。自分たちのペースで、好きな時に好きなだけ名湯を味わう。これこそが、全7室の宿が提供できる、最高の贅沢と言えるでしょう。
食事
この宿のハイライトは、女性料理長が腕を振るう加賀会席です。旬の食材を使い、一品一品丁寧に作られた料理は、どれも繊細で、優しい味わい。そして何より、その盛り付けの美しさに心が奪われます。まるで花が咲いたかのような八寸、瑞々しい野菜の色合い。女性ならではの感性が、お皿の上で見事に表現されています。目でも楽しみ、舌で味わう。五感で感じる美食の時間は、きっと忘れられない思い出になります。
サービス
部屋に通されると、まず香ばしい加賀棒茶とお茶菓子が運ばれてくる。
ほっと一息つきながら、窓の外の緑に目をやる。
「長旅、お疲れ様でした。どうぞ、ごゆっくりお過ごしくださいませ」
女将さんの柔らかな声が、心に優しく響く。
その笑顔と佇まいが、この宿のすべてを物語っているようだった。
「いい宿だな」
夫がぽつりと言う。
「ええ、なんだか、とても落ち着きますね」
派手さはないけれど、確かなぬくもりがここにはある。
私たちは、すでにこの宿の虜になっていた。
こんな50代夫婦におすすめ
- 大規模な旅館よりも、こぢんまりとした隠れ家のような宿が好きな夫婦
- 繊細で美しい、体に優しい料理をじっくりと味わいたい夫婦
- 温かく、家庭的なおもてなしに心から癒されたい夫婦
アクセス情報
- 住所: 〒922-0129 石川県加賀市山中温泉こおろぎ町ロ-143
- アクセス: JR加賀温泉駅よりタクシーで約20分
- 送迎: なし
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
夕食後、部屋に戻ると、さりげなく夜食のおにぎりが置かれていた。
小さく結ばれた、温かい心遣い。
「なんだか、実家に帰ってきたみたいだな」
夫がそう言って、少し照れくさそうに笑う。
私も、同じことを考えていた。
この宿には、人を「客」としてではなく、大切な「身内」として迎えてくれるような、懐かしい温かさがある。
派手なサービスや豪華な設備があるわけではない。
けれど、旅の終わりに心に残るのは、こういう何気ない優しさなのかもしれない。
「ありがとう」
私は、おにぎりを結んでくれたであろう、宿の人の顔を思い浮かべながら、小さく呟いた。
その言葉は、隣にいる夫への感謝の気持ちにも、重なって聞こえた。
季がさね(片山津温泉)
~柴山潟の七色に染まる、光と風のレイクサイドリゾート~
■おすすめポイント(季がさね)
- 全室レイクビューで、柴山潟の絶景を望む露天風呂付き客室
- 刻一刻と表情を変える、湖と空が織りなす感動的な風景
- 柴山潟に浮かぶような感覚を味わえる、インフィニティの展望大浴場
- 伝統とモダンが融合した、スタイリッシュな空間
- 加賀の伝統と革新が融合した、目にも美しい創作和食
加賀温泉郷の中で、唯一、湖に面した温泉地、片山津。その湖畔に佇む「季がさね」は、伝統的な温泉宿の趣と、現代的なリゾートの感性が美しく調和した宿です。この宿の主役は、なんといっても目の前に広がる柴山潟の絶景。時間や天候によって七色に変化するといわれる湖の風景は、それ自体がひとつのアート。光と風を感じる、開放的な滞在が待っています。
客室
客室は全室レイクビュー。大きな窓は、まるで一枚の風景画を切り取る額縁のようです。露天風呂付きの客室を選べば、その絶景を独り占めしながら湯浴みを楽しむことができます。白と木目を基調としたモダンなインテリアは、窓の外の景色をより一層引き立て、洗練されたくつろぎの空間を演出しています。
客室露天風呂の時間
夕暮れ時、空と湖が茜色から深い藍色へと刻一刻と表情を変えていく。そのドラマチックな光景を、ふたりきりの露天風呂から眺める時間は、言葉にならないほどの感動を呼び覚まします。
湖面を渡る涼やかな風が、火照った体を優しく撫でていく。遠くに見える白山連峰のシルエットが、夕闇に溶けていくのをただ黙って見つめる。「きれいだ…」。どちらからともなく漏れた呟きが、静かな水面に響く。雄大な自然の前では、人もまた、素直な心を取り戻せるのかもしれません。
共用風呂
宿の最上階にある展望大浴場は、まさに圧巻。湯船の縁が湖の水面と一体化して見えるインフィニティ設計になっており、まるで柴山潟に浮かんでいるかのような、不思議な浮遊感を味わえます。広々とした湯船に手足を伸ばし、どこまでも続く空と湖のパノラマを眺めていると、日々の小さな悩みなどすべてがちっぽけに思えてくる。心と体が解き放たれる、究極の癒しがここにあります。
食事
食事は、加賀の伝統を踏まえつつも、新しい感性を取り入れた創作和食。地元の新鮮な食材をふんだんに使い、一皿一皿がまるでアート作品のように美しく盛り付けられています。
ダイニングからも柴山潟の景色を望むことができ、美しい景色が最高のスパイスとなって、料理を一層美味しく引き立ててくれます。伝統的な加賀料理だけでなく、少しモダンなエッセンスが加わった料理は、新しい発見と驚きに満ちており、ふたりの会話も自然と弾むことでしょう。
サービス
テラスのソファに座り、湖面を眺める。
チェックインを済ませたばかりの私たちは、まだ少し硬い表情をしていたかもしれない。
「お客様、よろしければウェルカムドリンクをこちらへお持ちしましょうか」
スタッフの優しい声に、ふと我に返る。
「ああ、ありがとう」
運ばれてきた冷たいハーブティーが、乾いた喉を潤していく。
湖の上を、一羽の鳥がゆっくりと横切っていく。
その光景を見ているうちに、強張っていた肩の力が、すっと抜けていくのを感じた。
急がなくていい。何もしなくていい。
この場所は、そう教えてくれているようだった。
こんな50代夫婦におすすめ
- ドラマチックな自然の風景に心から感動したい夫婦
- 伝統的な旅館よりも、モダンでスタイリッシュな空間を好む夫婦
- 開放的な空間で、リフレッシュした時間を過ごしたい夫婦
アクセス情報
- 住所: 〒922-0412 石川県加賀市片山津温泉乙60-1
- アクセス: JR加賀温泉駅より送迎バスで約10分(要予約)
- 送迎: あり
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
夕暮れの客室露天風呂。
私たちは、言葉もなく、ただ湖が燃えるように染まっていくのを眺めていた。
夫がぽつりと言った。
「いろんな景色を、見てきたな」
その言葉に、これまでの人生が映画のワンシーンのように脳裏をよぎる。
初めてふたりで見た海。子どもが生まれた日に見た朝日。喧嘩した後に見た気まずい夕日。
良いことも、悪いことも、いつも隣には彼がいた。
「そうね。これからも、いろんな景色が見られるといいわね」
「ああ」
短い返事の中に、万感の想いが込められているのがわかる。
茜色に染まる湖面に、私たちの過去と未来が、静かに溶け合っていく。
七色に変わるという柴山潟のように、私たちの人生もまた、彩り豊かであり続けるだろう。
そんな確信にも似た想いを、胸に抱いていた。
まとめ|さあ、ふたりの時間を紡ぐ旅へ
加賀百万石の文化と豊かな自然に抱かれた、加賀温泉郷。今回ご紹介した5軒の宿は、いずれも単に体を休める場所ではなく、夫婦の物語に新たな1ページを書き加えるための、特別な舞台です。
- 瑠璃光(山代温泉):華やかなリゾートで、多彩な体験を楽しみたいふたりへ
- たちばな四季亭(山代温泉):本物の芸術に触れ、静謐な時間を過ごしたいふたりへ
- 花紫(山中温泉):絶景と美食を自分たち流に満喫したいふたりへ
- 胡蝶(山中温泉):温かなおもてなしに包まれ、優美な時間を過ごしたいふたりへ
- 季がさね(片山津温泉):ドラマチックな風景に心癒されたい、モダンなふたりへ
旅は、日常から離れるためにあるのではありません。日常では見過ごしがちな、すぐ隣にある大切な存在の温かさを再発見し、明日からの日々を、もっと豊かに生きるための力を得るためにあるのです。
さあ、次の休日は、ふたりの時間を深く紡ぐ旅へ出かけてみませんか。