なぜ賢い夫婦は、人生の節目に昼神温泉の星空を選ぶのか
子育てという長い旅を終え、ふと隣を見れば、少しだけ月日を重ねたパートナーの顔。慌ただしい日常から解放され、本当に大切なものだけを見つめ直したいと願うとき、多くの賢明な夫婦が長野県の南端、昼神温泉へと足を運びます。
そこにあるのは、都会の喧騒とは無縁の静寂と、環境省が「日本一、星が輝いて見える場所」と認定した圧倒的な夜空。そして、肌にまとわりつくように滑らかな「美人の湯」。派手な観光地ではないからこそ、ここでは時間の流れ方が違います。星の瞬きに悠久の時を感じ、湯の温もりに心身を委ねる。それは、ただの休息ではありません。これまで共に歩んだ道のりを労い、これから先の未来を穏やかに語り合うための、ふたりだけの神聖な儀式。
この記事では、そんな昼神温泉の中でも、特にプライベートな時間を大切にできる「露天風呂付き客室」を持つ、選りすぐりの宿を5軒ご紹介します。夫婦の時間を深く、美しく紡ぎ直す旅が、ここから始まります。
石苔亭 いしだ
~静寂の中に、日本の粋と美意識が宿る場所~
■おすすめポイント(石苔亭 いしだ)
- 敷地内に鎮座する、幽玄な能舞台
- 個性が光る、全19室がすべて趣の異なる造り
- 日本の伝統美を感じさせる、細やかなしつらえと庭園
- 信州の旬を凝縮した、芸術的な懐石料理
- 心に寄り添う、付かず離れずの絶妙なもてなし
まるで一つの小宇宙のような、静謐な空気に包まれた「石苔亭 いしだ」。一歩足を踏み入れた瞬間から、日常が遠ざかっていくのを感じるでしょう。この宿の象徴である能舞台は、ただの装飾ではありません。それは、訪れる客人に非日常の感動を提供したいという、宿の哲学そのものです。
客室
「石苔亭 いしだ」の客室は、一つとして同じ部屋はありません。日本の伝統的な美意識に基づきながらも、それぞれが独自の物語を秘めています。重厚な梁や繊細な組子障子、季節を映す庭を望む濡れ縁など、どこに目をやっても職人の技と美意識が感じられます。
客室露天風呂の時間
客室に備えられた露天風呂は、外界から完全に隔絶された、ふたりだけの聖域。信楽焼の陶器風呂や、御影石をくり抜いた湯船など、部屋ごとに異なる意匠が凝らされています。湯船に身を沈めれば、とろりとしたアルカリ性の湯が、まるで美容液のように肌を優しく包み込みます。
聞こえるのは、風が木々を揺らす音と、湯が静かに溢れる音だけ。日中は庭の緑を愛で、夜は空を見上げる。言葉を交わさずとも、同じ景色を見つめるだけで、互いの心が通い合うような不思議な一体感が生まれます。それは、これまで懸命に走ってきたふたりへの、何よりのご褒美となる時間です。
共用風呂
個々の客室風呂の素晴らしさに加え、「石苔亭 いしだ」には趣の異なる二つの大浴場があります。一つは、巨大な岩を配した野趣あふれる露天風呂。もう一つは、木の香りが心を落ち着かせる内湯。どちらも広々とした空間が確保されており、昼神温泉の「美人の湯」を心ゆくまで満喫できます。
湯上りには、回廊をゆっくりと散策するのも一興です。ライトアップされた庭園や能舞台が、昼間とはまた違う幻想的な表情を見せてくれます。館内のどこにいても感じられる静寂と品格が、夫婦の時間をより一層豊かなものにしてくれるでしょう。
食事
夕食は、信州の豊かな自然が育んだ旬の食材を、料理長の感性で昇華させた懐石料理。器選びから盛り付けに至るまで、すべてが一つの作品のようです。一品一品、丁寧に料理の説明を受けながら舌鼓を打つ時間は、まさに至福のひととき。
特に、地元のブランド牛や川魚、新鮮な山菜など、この土地ならではの味覚がふんだんに盛り込まれています。食べるという行為が、これほどまでに五感を満たす体験であったかと、改めて気づかされるでしょう。食事を通して、信州の風土や文化に触れることができるのも、この宿の大きな魅力です。
サービス
夕食を終え、部屋に戻る途中。
ライトアップされた能舞台が、闇の中に静かに浮かび上がっている。
「昔、君と観に行った舞台を思い出すな」
夫の言葉に、妻は微笑みで応える。
仲居さんがそっと差し出してくれた温かいお茶を手に、しばし幽玄の世界に見入る。
特別な会話はない。
だが、この宿が作り出す静寂と美意識が、言葉以上に多くのことを語りかけてくる。
こんな50代夫婦におすすめ
- 日本の伝統美や芸術に触れる旅をしたい夫婦
- 誰にも邪魔されない、完全にプライベートな空間を求める夫婦
- 結婚記念日など、特別な日を祝う旅を計画している夫婦
アクセス情報
- 住所: 〒395-0304 長野県下伊那郡阿智村智里332-3
- アクセス: JR飯田線「飯田駅」より車で約30分/中央自動車道「飯田山本IC」より車で約10分
- 送迎: なし
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
能舞台の前に設えられた椅子に、ふたり並んで腰掛ける。
夕闇が深まり、舞台が静かにライトアップされると、そこだけがまるで異空間のように浮かび上がった。
「不思議な場所だな。時間が止まっているみたいだ」
夫が静かにつぶやく。
妻は何も言わず、彼の肩にそっと頭を寄せた。
子供たちが巣立ち、家にふたりきりになった時、言いようのない寂しさと、少しの戸惑いがあった。
これから先、ふたりでどんな時間を過ごしていけばいいのだろう。
そんな答えのない問いが、この静寂の中に溶けていくようだ。
舞台の上では何も演じられていない。
しかし、ふたりのこれまでの人生という物語が、この幽玄な空間に映し出されているかのようだった。
「また来よう。今度は、違う季節に」
妻の言葉に、夫は黙って頷く。
ふたりの新しい物語が、今、静かに幕を開けた。
おとぎ亭 光風
~全室露天風呂付き、ふたりだけの物語が始まる宿~
■おすすめポイント(おとぎ亭 光風)
- 全室に源泉かけ流しの露天風呂を完備したプライベート空間
- どこか懐かしい、おとぎ話の世界に迷い込んだような館内
- 個室の食事処で気兼ねなく味わえる、囲炉裏炭火焼
- 星空観賞ツアーへの送迎など、アクティビティへのサポート
- 大切な人との時間を何よりも優先する、宿の温かい思想
「おとぎ亭 光風」は、その名の通り、訪れる人を優しい物語の世界へと誘います。豪華さや格式ばった雰囲気よりも、温もりとプライベート感を大切にしたいと願う夫婦にぴったりの宿。全室に露天風呂が付いているため、滞在中は誰に気兼ねすることなく、ふたりだけの時間を満喫できます。
客室
古民家風の梁や温かみのある照明が印象的な客室は、どこか懐かしく、心から寛げる空間です。華美な装飾はありませんが、掃除の行き届いた清潔感と、使いやすさを考え抜かれた設えに、宿の細やかな心遣いが感じられます。窓の外には、信州ののどかな自然が広がります。
客室露天風呂の時間
この宿の真骨頂は、すべての客室に備えられた源泉かけ流しの露天風呂。いつでも好きな時に、新鮮な「美人の湯」を独り占めできる贅沢は、何物にも代えがたい体験です。木曽檜や信楽焼など、部屋ごとに趣向を凝らした湯船が、旅の気分を盛り上げます。
夕食の前にひと浴び、寝る前にもう一度、そして朝、鳥の声で目覚めてすぐの朝風呂。そんな気ままな湯浴みが叶います。夜には、満天の星を眺めながら湯船に浸かることも。夫が好きな日本酒を片手に、妻がハーブティーを飲みながら、他愛のない話をする。そんな何気ないひとときが、忘れられない思い出に変わります。
共用風呂
こちらの宿には、大浴場などの共用風呂は用意されていません。それは、全客室に備えられた専用の露天風呂で、誰にも気兼ねすることなく、ふたりの時間を心ゆくまで楽しんでほしいという、宿の哲学の表れです。滞在のすべてが、ふたりのためだけに流れる時間であることを、この空間設計が物語っています。
食事
夕食は、個室の食事処でいただく囲炉裏炭火焼が名物です。パチパチと音を立てる炭火を囲み、アマゴや五平餅、信州牛などを自分たちのペースで焼きながらいただくスタイルは、自然と会話が弾む楽しいひととき。
煙の匂いや、食材が焼ける香ばしい香りも、旅の素晴らしいスパイスになります。出来合いのものをいただく懐石料理とは一味違う、このライブ感あふれる食事が、夫婦の距離をさらに縮めてくれるでしょう。気取らず、心から食事を楽しみたい夫婦におすすめです。
サービス
夕食後、宿のスタッフが声をかけてきた。
「今夜は星が綺麗ですよ。屋上の観測ドーム、ご案内しましょうか?」
促されるままに屋上へ上がると、そこには本格的な天体望遠鏡が設置されていた。
スタッフが慣れた手つきで操作し、レンズを覗かせてくれる。
「うわあ……」
妻が思わず声を上げた。
レンズの先には、くっきりと環をまとった土星が浮かんでいる。
宇宙の壮大さと、自分たちの存在の小ささ、そして、今こうして隣にいるパートナーの温かさを同時に感じる、不思議な時間だった。
こんな50代夫婦におすすめ
- 滞在中は誰にも邪魔されず、ふたりきりの時間を過ごしたい夫婦
- 気取った雰囲気ではなく、アットホームで温かいもてなしを求める夫婦
- 囲炉裏料理など、体験型の食事を楽しみたい夫婦
アクセス情報
- 住所: 〒395-0304 長野県下伊那郡阿智村智里407
- アクセス: JR飯田線「飯田駅」より車で約30分/中央自動車道「園原IC」より車で約5分
- 送迎: あり(JR飯田駅より ※要予約)
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
部屋の露天風呂の縁に、ふたり並んで腰掛ける。
昼神温泉のとろりとした湯が、足元を優しく撫でていく。
「昔、子供たちが小さい頃、家族旅行で来た温泉を思い出すな」
夫が夜空を見上げながら言った。
あの頃は、子供たちから目を離さず、ゆっくり湯に浸かることなんてできなかった。
自分のことより、いつも家族が優先だった。
「そうね。あの時も、あなたは子供たちを先にお風呂から上げて、体を拭いてあげてたわ」
妻が懐かしそうに微笑む。
懸命に、そして夢中で駆け抜けてきた日々。
今、こうして何にも急かされることなく、ただふたりで湯に浸かり、星を眺めている。
それは、あの頃には想像もできなかった、穏やかで贅沢な時間。
「お疲れ様」
どちらからともなく、同じ言葉が口をついて出た。
互いの労をねぎらうその一言に、これまでのすべてが報われるような気がした。
日長庵 桂月
~四季を映す庭園と、静寂に満ちた数寄屋の宿~
■おすすめポイント(日長庵 桂月)
- 手入れの行き届いた、四季折々の表情を見せる日本庭園
- わずか10室のみ、数寄屋造りの離れがもたらす格別な静けさ
- 南信州の清流が育んだ、川魚料理を中心とした繊細な会席
- 木曽五木をふんだんに使用した、木の香りに癒される空間
- 庭園を眺めながら湯浴みできる、開放的な露天風呂
「日長庵 桂月」は、美しい日本庭園を囲むように、わずか10室の離れが点在する数寄屋造りの宿です。その魅力は、何と言っても圧倒的な静けさと、日本の伝統建築が持つ凜とした美しさ。日常の喧騒から逃れ、ただひたすらに心を研ぎ澄ませたいと願う夫婦にとって、ここはまさに理想郷と言えるでしょう。
客室
客室はすべて、庭園に面した離れ形式。他の宿泊客の気配を感じることなく、完全なプライベートが保たれます。木曽五木(檜・椹・翌檜・高野槇・鼠子)を贅沢に使用した室内は、清々しい木の香りに満ちており、深呼吸するだけで心が洗われるようです。広々とした濡れ縁に座り、ただ庭を眺める。そんな何もしない時間が、最高の贅沢だと教えてくれます。
客室露天風呂の時間
庭園に溶け込むように設えられた客室露天風呂は、この宿のハイライトです。石造りの湯船に身を沈めれば、目線は庭の緑と一つになります。春には桜、夏には深緑、秋には紅葉、冬には雪景色と、訪れる季節ごとに異なる絵画のような風景を独り占めできます。
特に朝霧が立ち込める早朝の湯浴みは格別。ひんやりとした空気の中、温かい湯に包まれながら、少しずつ白んでいく空と庭を眺めていると、心の中のわだかまりが静かに解けていくのを感じるでしょう。夫婦の間に流れる時間も、この庭のように穏やかで、深く、そして美しくなっていくはずです。
共用風呂
「日長庵 桂月」には、風情ある大浴場も完備されています。広々とした内湯と、庭園の木々を間近に感じられる露天風呂があり、客室とはまた違った開放感を味わうことができます。特に露天風呂は、まるで森の中で湯浴みをしているかのような錯覚に陥るほど、自然との一体感が魅力です。
客室数が少ないため、大浴場が混み合うことはほとんどありません。時間帯によっては、広大な湯船を貸切状態で利用できることも。夫婦でそれぞれ湯浴みを楽しみ、湯上り処で待ち合わせる。そんな館内散策も、旅の楽しみの一つです。
食事
夕食は、南信州の清らかな水で育った川魚や、地元の新鮮な野菜をふんだんに使った会席料理が部屋食で提供されます。派手さはありませんが、一品一品、素材の持ち味を最大限に引き出すことに心を砕いた、実直で丁寧な仕事ぶりが伝わってきます。
名物の「あまごの塩焼き」は、絶妙な塩加減と火入れで、川魚が苦手な人でもその美味しさに驚くほど。お酒を嗜む夫婦であれば、地元の銘酒と共にゆっくりと味わうのがおすすめです。誰にも邪魔されず、ふたりのペースで食事と会話を楽しめる時間は、何よりの贅沢です。
サービス
濡れ縁に座り、夫が淹れてくれたコーヒーを飲む。
庭師が手入れをしているのだろうか、遠くで葉を剪定する音がかすかに聞こえる。
妻がふと、庭の一角を指さした。
「見て、あそこに小さな鳥が」
目を凝らすと、メジロだろうか、可愛らしい小鳥が枝から枝へと飛び移っている。
ただそれだけの光景が、なぜかとても心に残る。
この宿には、過剰なサービスはない。
ただ、美しい自然と静寂、そしてそれを守る人々の丁寧な営みがある。
それが、乾いた心に一番沁みるもてなしだと気づく。
こんな50代夫婦におすすめ
- 美しい日本庭園を眺めながら、静かに過ごしたい夫婦
- 日本の伝統的な建築美や数寄屋造りに興味がある夫婦
- 派手さよりも、素材の味を活かした丁寧な和食を好む夫婦
アクセス情報
- 住所: 〒395-0304 長野県下伊那郡阿智村智里437
- アクセス: JR飯田線「飯田駅」より車で約20分/中央自動車道「飯田山本IC」より車で約10分
- 送迎: なし
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
雨上がりの朝、庭はしっとりと濡れ、緑が一層深く見えた。
客室の露天風呂から立ち上る湯気が、朝の光にきらきらと輝いている。
「君は昔から、雨上がりの庭が好きだったな」
湯船の向こうで、夫が静かに言った。
妻は驚いて顔を上げる。
そんな昔のことを、まだ覚えていてくれたのか。
子育てに追われ、仕事に追われ、いつからだろう、こんな風に互いの好きなものを確かめ合う時間を忘れていたのは。
庭の苔の上を、小さな雫がころころと転がっていく。
まるで、ふたりが過ごしてきた時間のようだと思った。
嬉しいことも、辛いことも、すべてがこの美しい庭の景色に溶け込んで、静かに輝いている。
「ええ、今も好きよ」
妻は、心の底からそう答えた。
雨上がりの庭は、すべてを洗い流し、新しい光を見せてくれる。
ふたりの時間も、きっとそうだ。
懐石と炉ばたの宿 吉弥
~炉ばたの火を囲み、心温まる語らいの夜を~
■おすすめポイント(懐石と炉ばたの宿 吉弥)
- 炭火の温かさと香ばしい香りに包まれる、本格的な炉ばた料理
- 全8室というこぢんまりとした宿ならではの、家庭的なおもてなし
- 南信州の山々を望む、開放感のある露天風呂付き客室
- 地元の食材を知り尽くした主人が振る舞う、心のこもった料理
- まるで実家に帰ってきたかのような、気取らない寛ぎの空間
「懐石と炉ばたの宿 吉弥」は、豪華さよりも、人の温もりや食の楽しさを大切にしたいと考える夫婦にぴったりの宿です。この宿の主役は、何と言っても炉ばたを囲んでいただく夕食。パチパチと燃える炭火が、夫婦の会話を自然と温かく、そして穏やかなものにしてくれます。
客室
全8室の客室は、それぞれが広々とした和モダンな空間。大きな窓からは南信州ののどかな山並みを望むことができ、心安らぐ時間を過ごせます。新しい畳の匂いや、清潔に整えられた寝具に、宿の誠実な姿勢が表れています。露天風呂付きの客室を選べば、好きな時に好きなだけ、昼神の湯と絶景を独り占めできます。
客室露天風呂の時間
客室のテラスに設えられた露天風呂は、開放感抜群。目の前に広がる山々の景色を眺めながら湯船に浸かれば、日々の疲れやストレスがすーっと溶けていくようです。昼神温泉特有のとろりとした湯は、湯上りの肌をしっとりと滑らかにしてくれます。
夜には、手が届きそうなほどの星空の下での湯浴みが楽しめます。遠くで聞こえる虫の音をBGMに、ふたりで今日の出来事や昔の思い出を語り合う。炉ばたで温まった体が、温泉でさらに芯からほぐされていく。心と体の両方が満たされる、極上のリラックスタイムです。
共用風呂
「吉弥」には、趣のある岩造りの大浴場と露天風呂もあります。昼神の山々を借景にした露天風呂は、客室風呂とはまた違う、ダイナミックな景色が魅力。手足を思い切り伸ばして、豊富な湯量のを誇る昼神の湯を全身で感じることができます。
こぢんまりとした宿なので、大浴場で他の宿泊客と一緒になることも少なく、ゆったりと自分たちのペースで湯浴みを楽しめます。客室のプライベートな湯船と、開放的な大浴場。その両方を気分に合わせて使い分けられるのも、嬉しいポイントです。
食事
この宿の真骨頂である、炉ばた料理。食事処に足を踏み入れると、炭火の香ばしい匂いと、食材が焼ける心地よい音が迎えてくれます。目の前の炉で、宿の主人が自ら焼いてくれる川魚や五平餅、地鶏などは、どれも絶品。
焼きたて熱々を頬張る幸せは、何物にも代えがたいものがあります。食材の美味しさはもちろんのこと、主人の気さくな人柄や、料理にまつわる話を聞くのも楽しみの一つ。かしこまった懐石料理とは違う、このライブ感あふれる食事が、夫婦の間に自然な笑顔と会話を生み出します。
サービス
炉ばたの火を前に、夫がぽつりと言った。
「親父が好きだったんだ、こういうの」
子供の頃、家族で囲んだバーベキューの記憶が蘇る。
宿の主人が、焼きたての五平餅を差し出しながら、にこやかに話しかけてきた。
「ここの味噌は、隣のばあちゃんの手作りでね。毎年味が少し違うのが、またいいんですよ」
その言葉に、ふっと心が和む。
マニュアル通りの接客ではない、人と人との温かい触れ合い。
最高の料理とは、最高の食材だけでなく、作り手の愛情というスパイスがあってこそ完成するのだと知る。
こんな50代夫婦におすすめ
- 食事の時間を大切にし、体験型の料理を楽しみたい夫婦
- 大規模な旅館よりも、アットホームで家庭的な宿を好む夫婦
- 宿の人との温かい交流を旅の醍醐味と感じる夫婦
アクセス情報
- 住所: 〒395-0304 長野県下伊那郡阿智村智里512-1
- アクセス: JR飯田線「飯田駅」より車で約25分/中央自動車道「飯田山本IC」より車で約15分
- 送迎: なし
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
炉ばたの炭火が、静かに赤く燃えている。
アマゴが焼ける香ばしい匂いが、ふたりの間を満たしていた。
「美味しいな」
夫が、子供のような顔で呟く。
普段、家ではあまり料理の感想を言わない人だ。
仕事一筋で、不器用で、口数も少ない。
でも、今日、この宿で見た彼の笑顔は、結婚したばかりの頃の、少しやんちゃな青年の面影を宿していた。
パチッ、と炭のはぜる音。
そういえば、ふたりで火を囲むなんて、何年ぶりだろう。
不思議なものだ。ただ火を挟んで座っているだけなのに、普段は言えないような素直な気持ちが湧き上がってくる。
「あなた、楽しそうね」
妻が言うと、夫は少し照れたように視線を落とし、熱いお茶をすすった。
その横顔を見ながら、妻は思う。
この人と、これからもこうして一緒に火を囲んでいきたい。
炉ばたの火は、凍てついた心を解かす魔法の光なのかもしれない。
お宿 山翠
~渓流の瀬音に癒される、大人のための隠れ家~
■おすすめポイント(お宿 山翠)
- 阿智川の渓流沿いに佇む、せせらぎがBGMの静かなロケーション
- わずか9室、全室露天風呂付きでプライベートを重視
- 信州プレミアム牛など、地元の最高級食材を味わう会席料理
- 和とモダンが融合した、洗練された客室デザイン
- 自然に抱かれ、心から何もしない贅沢を味わえる環境
阿智川の清流に寄り添うように佇む「お宿 山翠」。ここは、都会の喧騒を忘れ、ただひたすらに自然の音に耳を澄ませたいと願う大人のための隠れ家です。わずか9室の客室はすべて露天風呂付き。聞こえてくるのは渓流のせせらぎと鳥のさえずりだけという、究極の癒やし空間が待っています。
客室
和の落ち着きとモダンな機能性を兼ね備えた客室は、大人の滞在にふさわしい上質な空間です。広々とした窓からは、まるで絵画のように阿智川の渓流と木々を望むことができます。ソファに身を沈めて読書をしたり、テラスに出て川風を感じたりと、思い思いの時間を過ごせます。
客室露天風呂の時間
この宿の最大の魅力は、渓流を間近に望む客室露天風呂です。遮るものが何もない、自然と一体になれるかのような湯浴みは、ここでしか味わえない特別な体験。川のせせらぎが心地よいBGMとなり、心身を深いリラクゼーションへと誘います。
とろりとした昼神の湯が体を芯から温め、清らかな川の流れが心を洗い清めてくれるようです。日中は陽光にきらめく水面を、夜は月明かりに照らされる渓谷を眺めながら、ふたりだけの湯に浸かる。言葉はいらない、ただこの場所に身を委ねるだけで、夫婦の絆は静かに深まっていきます。
共用風呂
こちらの宿には、大浴場などの共用風呂は用意されていません。それは、全客室に備えられた渓流沿いの露天風呂で、誰にも邪魔されることなく、自然の音に包まれる特別な時間を心ゆくまで堪能してほしいという、宿からの最高の贈り物です。プライベートな空間で、昼神温泉の恵みを独占する贅沢を味わってください。
食事
夕食は、信州が誇る最高級の食材を惜しみなく使用した、創作会席料理。とろけるような食感の「信州プレミアム牛」をメインに、地元の旬の野菜や川の幸が彩り豊かに並びます。一皿一皿、丁寧に作られた料理は、見た目にも美しく、五感を満たしてくれます。
食事は個室の食事処で提供されるため、周りを気にすることなく、ゆっくりと料理と会話に集中できます。窓の外に広がる自然を感じながらいただく食事は、格別の味わい。料理長の繊細な技と、信州の豊かな恵みが織りなす美食の数々が、旅の夜を華やかに演出します。
サービス
テラスの椅子に並んで座り、川の流れをただ眺めている。
夫が新しい文庫本を開き、妻は編み物を取り出した。
会話はない。
ただ、川の流れる音と、時折聞こえる鳥の声だけが、ふたりの間に流れている。
しばらくして、宿のスタッフがそっとハーブティーを運んできた。
「よろしければ、どうぞ。カモミールでございます」
そのさりげない心遣いが、とても温かく感じられた。
ここでは、何かをしなければならないというプレッシャーがない。
何もしないことを、ただ肯定してくれる空気が流れている。
こんな50代夫婦におすすめ
- 渓流のせせらぎなど、自然の音に包まれて過ごしたい夫婦
- 最高級の食材を使った、質の高い料理を堪能したい夫婦
- 誰にも干渉されず、「何もしない贅沢」を心から味わいたい夫婦
アクセス情報
- 住所: 〒395-0304 長野県下伊那郡阿智村智里490
- アクセス: JR飯田線「飯田駅」より車で約25分/中央自動車道「園原IC」より車で約10分
- 送迎: あり(JR飯田駅、高速バス飯田駅前バス停より ※要予約)
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
夜更け、部屋の露天風呂にふたりで浸かっている。
空には、こぼれ落ちてきそうなほどの星。
すぐそばを流れる川の音が、ごうごうと、しかし心地よく響いている。
「すごい星だね」
妻が、空を見上げながらささやいた。
「ああ」
夫は短く応え、湯の中で妻の手をそっと握った。
その手は、昔よりも少しごつごつして、硬くなっている。
この手で、家族を支え、働き続けてくれたのだ。
「ありがとう」
妻が言うと、夫は何も言わずに、握る手に少しだけ力を込めた。
言葉にしなくても、伝わる想いがある。
星の光が川面に反射して、無数にきらめいている。
それはまるで、ふたりがこれまで共に過ごしてきた、数えきれないほどの時間のようだった。
これからも、この川の流れのように、時に激しく、時に穏やかに、ふたりの時間は続いていく。
この満天の星と川の瀬音は、きっとその道標になってくれるだろう。
まとめ|さあ、ふたりの時間を紡ぐ旅へ
日本一の星空の下、とろりとした名湯に癒される昼神温泉。ご紹介した5軒の宿は、いずれも単なる宿泊施設ではなく、夫婦ふたりの時間を深く、豊かにするための舞台装置です。
- 日本の粋と美を堪能するなら「石苔亭 いしだ」
- 完全なプライベート空間を求めるなら「おとぎ亭 光風」
- 静寂の庭園に心を委ねるなら「日長庵 桂月」
- 食の楽しさと温もりを味わうなら「懐石と炉ばたの宿 吉弥」
- 渓流の瀬音に癒されるなら「お宿 山翠」
子育てが終わり、人生の新しいステージを迎えた今だからこそ、訪れるべき場所があります。日常から離れ、美しい自然と上質な空間に身を置くことで、見えてくる景色、聞こえてくる心の声があるはずです。
満天の星にこれまでの軌跡を想い、滑らかな湯にこれからの未来を語らう。さあ、次はあなたが、パートナーと共に新しい物語を紡ぐ番です。昼神温泉が、ふたりの旅路を温かく照らしてくれることを願っています。