なぜ、人生の節目に立つ夫婦は函館湯の川温泉へ向かうのか
大都市の喧騒から遠く離れ、異国情緒あふれる街並みと、穏やかな津軽海峡が交差する場所、函館。その奥座敷である湯の川温泉は、ただ体を癒すだけの温泉地ではありません。ここは、子育てという大きな役割を終え、これからの人生をふたりで見つめ直す50代の夫婦にとって、特別な時間が流れる場所です。
函館空港からわずか5分という利便性の中にありながら、潮の香りと歴史が深く息づく静謐な空気。江戸時代から続く名湯に身を委ねれば、これまで語り尽くせなかった想いが、自然とあたたかい湯気に溶けていく。美食、夜景、そして何より、誰にも邪魔されない客室の露天風呂。それは、これからの人生という旅の、新たな一ページをめくるための、最高の舞台装置となるのです。ここでは、ふたりの時間を深く紡ぎ直すための、珠玉の宿を5軒ご紹介します。
望楼NOGUCHI函館
~函館の夜景とアートに酔いしれる、デザイン空間~

■おすすめポイント(望楼NOGUCHI函館)
- 全室スイート仕様の贅沢な空間設計
- 函館の街並みや空港を一望する客室展望温泉
- 最上階のスカイラウンジで楽しむフリードリンクと夜景
- 北海道の恵みを凝縮した「地美恵」がテーマの和洋会席
- ライブラリーやバーなど、大人の知的好奇心を満たす共用施設
函館の文化と歴史に敬意を払い、モダンな感性で再構築された空間は、まるで泊まれる美術館のよう。一歩足を踏み入れた瞬間から、日常は遠く霞んでいきます。ここは、ただ寛ぐだけではなく、知的な刺激と静かな感動に満ちた、大人のための隠れ家です。
客室
60㎡以上の広さを誇る客室は、「WAMODERN」をコンセプトにした洗練された和洋室。大きな窓の向こうには、時間と共に表情を変える函館の街並みが広がります。アートが配された室内に身を置けば、ふたりの会話もいつもより豊かになることでしょう。
客室露天風呂の時間
窓際に設えられた展望風呂は、一枚の絵画を望む特等席。御影石の重厚な質感が、湯のやわらかさを引き立てます。眼下に広がるのは、函館の街の灯り。遠く空港から飛び立つ飛行機の光跡が、まるで流れ星のように夜空を横切っていきます。
肩を並べて湯に浸かれば、言葉はもう必要ありません。これまで歩んできた道のりと、これから歩む未来について、静かに思いを馳せる。そんな、贅沢で内省的な時間がここに流れています。湯けむりの向こうに揺れる夜景は、ふたりのこれからの人生を、優しく照らしているかのようです。
共用風呂
最上階13階に位置する展望露天風呂は、まさに天空の湯船。遮るもののないパノラマビューで、函館山と津軽海峡を同時に望むことができます。その開放感は、日々の悩みや疲れを、ちっぽけなものに感じさせてくれるほどの絶景です。
湯上がりには、同じフロアにある「Sky Salon Boukyou」へ。湯の火照りを冷ましながら、フリードリンクを片手に函館の夜景を心ゆくまで堪能する。夫婦で過ごす、旅の夜のクライマックスにふさわしい空間です。
食事
食事のコンセプトは「地美恵(ちみえ)」。北海道・函館の美しい大地が生んだ恵みを、目と舌で味わう創作会席です。半個室の食事処で提供される一皿一皿は、まるで芸術品。新鮮な魚介はもちろん、契約農家から届く野菜の力強い味わいに、思わず感嘆の声が漏れるでしょう。
料理に合わせてソムリエが厳選したワインや日本酒のペアリングを頼めば、食の体験はさらに深まります。ふたりの記念日を、忘れられない味覚の記憶で彩ってみてはいかがでしょうか。
サービス
ラウンジのソファに深く腰掛けると、ウェルカムドリンクと共に老舗の和菓子がそっと差し出される。
チェックインを済ませ、部屋で一息ついた夫が、書棚に並んだ函館ゆかりの本を手に取る。
「この作家、君が好きだったじゃないか」
妻は微笑み、窓の外に広がる夕暮れの空を眺める。
壁にかけられた一枚のアートが、静かにふたりを見守っている。
ここでは、流れる時間そのものが、最高のおもてなし。
こんな50代夫婦におすすめ
- 美しい夜景を眺めながら、ふたりだけの時間を過ごしたい夫婦
- アートや建築、知的な空間を好む知的好奇心旺盛な夫婦
- 食事にもこだわり、料理と空間のマリアージュを楽しみたい夫婦
アクセス情報
- 住所: 北海道函館市湯川町1丁目17-22
- アクセス: 函館空港から車で約10分、JR函館駅から車で約15分
- 送迎: なし
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
最上階のラウンジ、窓際の席。
街の灯りが、宝石のように瞬き始める。
夫が、そっとシャンパングラスを傾けた。
「結婚して、もう30年か」
妻は、彼の横顔を見つめながら、静かに頷く。
「あっという間だったわね」
「いろんなことがあったな」
「ええ、本当に」
決して平坦ではなかった道のり。
けれど、今こうして隣にいられることの、かけがえのない幸福。
言葉にしなくても、想いは伝わる。
眼下の夜景が、ふたりの重ねてきた歳月を祝福するように、どこまでも、どこまでも広がっている。
グラスを合わせる澄んだ音が、静かな空間に響いた。
それは、これからも続いていく、ふたりの物語の新たな始まりを告げる音。
函館の夜は、ふたりのために、優しく更けていく。
HAKODATE 海峡の風
~大正・昭和・平成へ。食のタイムトラベルを愉しむ宿~
■おすすめポイント(HAKODATE 海峡の風)
- 全室60㎡以上の広々とした客室で、別荘のような滞在感
- 展望風呂付き客室からは、函館の街や津軽海峡の景色を堪能
- コンセプトの異なる3つのレストランで、函館の美食を味わい尽くす
- 青函市場をテーマにした、新鮮な魚介に特化した朝夕のビュッフェ
- 大正ロマン、昭和レトロなど、ノスタルジックな雰囲気が漂う館内
「函館の風土・歴史・文化を味わう」をコンセプトに、まるで時間旅行をしているかのような体験ができる宿。特に「食」へのこだわりは圧巻で、選ぶ楽しさと味わう喜びに満ちています。アクティブに、そして美味しく旅を楽しみたい夫婦に最適です。
客室
60㎡以上のゆとりある客室は、モダンでありながらどこか懐かしい、居心地の良い空間。大きなソファに身を預ければ、自宅のようにリラックスして過ごせます。窓の外にはガーデンビューや市街地側の夜景が広がり、旅の情緒を深めます。
客室露天風呂の時間
客室に備えられた展望風呂の湯船は、身体をゆったりと伸ばせるほどの広さ。窓を全開にすれば、心地よい夜風が頬を撫で、まるで本物の露天風呂のような開放感を味わえます。湯の川のしょっぱいお湯が、じんわりと身体の芯まで温めてくれます。
函館の夜景を眺めながら、あるいは朝の光を浴びながら、ふたりきりで湯に浸かる。誰にも気兼ねすることなく、好きな時間に好きなだけ名湯を楽しめる。これ以上の贅沢があるでしょうか。日常の疲れが、湯けむりと共にゆっくりと消えていくようです。
共用風呂
館内には、大正ロマンと昭和レトロ、2つの時代をテーマにした趣の異なる大浴場があります。赤レンガやステンドグラスが美しい「夢乃湯」と、昔懐かしい銭湯を思わせる「平成乃湯」。どちらも遊び心に満ちており、湯めぐり気分で楽しめます。
さらに、隣接する姉妹館「湯元 啄木亭」の空中露天風呂も利用可能。地上30mから函館の街並みを見下ろす絶景の湯浴みは、忘れられない思い出になるはず。宿に戻ったら、湯上がり処の無料アイスキャンディーでクールダウン。そんな散策も、この宿ならではの楽しみ方です。
食事
この宿の真骨頂は、コンセプトの異なる3つのレストラン。最大の魅力は、函館朝市や青森の市場をイメージしたビュッフェレストラン「青函市場」。職人が目の前で握る寿司、炭火で焼き上げる炉端焼き、自分で作る海鮮丼など、新鮮な魚介を心ゆくまで味わえます。
その他、モダンフレンチと懐かしい洋食が融合した「函館銀座軒」、NYの寿司バーのような空間で創作寿司会席を楽しめる「Blue Seasons」と、その日の気分で選べるのが嬉しい。毎食が旅のハイライトになる、美食の宿です。
サービス
ビュッフェ台に並ぶ、色とりどりの小鉢。
妻が楽しそうに指をさす。
「あら、珍しいお魚。これは何かしら」
隣にいた料理人が、にこやかに答える。
「そちらは“ごっこ”という魚の汁物でして、冬の函館の郷土料理なんですよ」
その土地のものを、その土地の人の言葉で知る。
旅の醍醐味は、こういう瞬間にこそあるのかもしれない。
夫は、自分で盛り付けた海鮮丼を、誇らしげに妻に見せている。
こんな50代夫婦におすすめ
- とにかく新鮮な海の幸を、お腹いっぱい堪能したい夫婦
- ビュッフェスタイルで、好きなものを好きなだけ楽しみたい夫婦
- 少しレトロで遊び心のある空間で、非日常感を味わいたい夫婦
アクセス情報
- 住所: 北海道函館市湯川町1丁目18-15
- アクセス: 函館空港から車で約10分、JR函館駅から車で約15分
- 送迎: なし
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
夕食のビュッフェは、まるでお祭りのようだった。
あれもこれもと皿にのせる妻の、少女のようにはしゃぐ姿を、夫は久しぶりに見た気がする。
部屋に戻り、窓際のソファに並んで腰掛ける。
「食べ過ぎたわね」
妻が笑いながら言うと、夫もつられて笑った。
「本当に。でも、美味しかったな」
「ええ、特にあの炉端で焼いたホタテ」
「俺は、自分で作った海鮮丼だな」
他愛もない会話が、心地よく部屋に響く。
お腹も心も満たされた、穏やかな夜。
窓の外には、静かな函館の夜景が広がっている。
旅先で交わす何気ない言葉と、美味しい記憶。
それこそが、ふたりの人生を豊かにする、何よりの宝物なのかもしれない。
「明日も、朝市ビュッフェが楽しみね」
妻の言葉に、夫は優しく頷いた。
湯の川プリンスホテル渚亭
~どこまでも続く水平線と一体になる、海辺の湯浴み~
■おすすめポイント(湯の川プリンスホテル渚亭)
- 日本有数の客室数を誇る、全120室の温泉露天風呂付き客室
- 目の前は津軽海峡。遮るもののない圧巻のオーシャンビュー
- 函館の旬が満載の、ライブキッチンが充実したディナービュッフェ
- 海にせり出すように造られた、開放感抜群の大浴場
- 函館空港から車で約5分という、観光にも便利な好立地
目の前に広がるのは、ただ、海と空だけ。湯の川温泉の中でも、ひときわ海に近いロケーションを誇るこのホテルは、その絶景を独り占めできる露天風呂付き客室が自慢です。寄せては返す波音をBGMに、心ゆくまで湯浴みを満喫する。そんな純粋な温泉の喜びを求める夫婦に、最高の時間を提供してくれます。
客室
海側の客室の窓から見えるのは、どこまでも続く津軽海峡の水平線。まるで豪華客船のキャビンにいるかのような景色が広がります。和室や和洋室など、落ち着いた設えの客室で、心穏やかな時間を過ごすことができます。
客室露天風呂の時間
この宿の客室露天風呂は、まさに海と一体になるための場所。信楽焼や檜など、様々なタイプの湯船が用意されていますが、そのすべてが津軽海峡に面しています。湯船に体を沈めれば、視線は水平線と同じ高さに。潮騒とカモメの声だけが聞こえる空間で、時が経つのを忘れてしまいます。
朝は、水平線から昇る朝日に照らされながら。夜は、沖に揺れる漁火を眺めながら。刻一刻と表情を変える海と共に過ごす湯浴みは、何物にも代えがたい贅沢です。ふたりでただ黙って海を眺めているだけで、心が満たされていくのを感じるはずです。
共用風呂
海にせり出すように造られた大浴場もまた、圧倒的な開放感が魅力です。特に露天風呂は、まるで海に浮かんでいるかのような感覚を味わえるインフィニティ仕様。広々とした湯船で手足を伸ばし、函館の名湯を全身で感じてください。
湯上がり処に用意されたドリンクサービスも嬉しい心遣い。火照った体に、冷たい飲み物が心地よく染み渡ります。大浴場からの絶景も素晴らしいですが、やはりこの宿の神髄は、客室露天風呂でのプライベートな湯浴みにあると言えるでしょう。
食事
夕食は、函館の新鮮な山海の幸を約50種類も揃えた、和洋中のディナービュッフェ。一番の魅力は、料理人が目の前で腕を振るうライブキッチンです。揚げたての天ぷら、焼きたてのステーキ、握りたての寿司など、出来立て熱々の料理がテーブルを彩ります。
一品一品が丁寧に作られており、ビュッフェでありながらも満足度の高い食事が楽しめます。好きなものを好きなだけ、自分のペースで味わえるのもビュッフェの魅力。夫婦で「次はあれを食べてみよう」「これも美味しいね」と会話を弾ませながら、賑やかな夕食の時間をお過ごしください。
サービス
客室の露天風呂から、夫が妻に声をかける。
「おい、すごいぞ。カモメがすぐそこまで来てる」
妻が窓辺に駆け寄ると、湯船の縁の手すりに、一羽のカモメが悠然と佇んでいた。
ふたりとカモメの間に、遮るものは何もない。
「こんにちはって言ってるのかしら」
「さあな。何かくれって言ってるのかもしれないぞ」
自然との、予期せぬ出会い。
計算されていない、ありのままの風景。
それこそが、この海辺の宿がくれる、最高の贈り物。
こんな50代夫婦におすすめ
- とにかく海の絶景を眺めながら、温泉に浸かっていたい夫婦
- 誰にも気兼ねなく、好きな時に客室露天風呂を楽しみたい夫婦
- 出来立ての料理が味わえる、ライブ感のあるビュッフェが好きな夫婦
アクセス情報
- 住所: 北海道函館市湯川町1丁目2-25
- アクセス: 函館空港から車で約5分、JR函館駅から車で約15分
- 送迎: なし
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
夜更け、部屋の露天風呂にふたりで浸かる。
沖に揺れる漁火が、暗い海面をぽつりぽつりと照らしている。
「綺麗ね、いさりび」
妻が静かにつぶやいた。
「ああ」
夫は短く応え、夜の海に目を凝らす。
遠い昔、ふたりで見た映画のワンシーンが、ふと脳裏をよぎる。
あの頃は、がむしゃらに前だけを見て走ってきた。
気づけば、子供たちは巣立ち、ふたりだけの時間が戻ってきた。
寄せては返す波の音が、まるで子守唄のように優しく響く。
これから先、どんな景色をふたりで見ていくのだろう。
答えはない。
ただ、こうして隣で同じ景色を眺めていられる幸せが、今は何よりも愛おしい。
湯の川のしょっぱい湯が、少しだけ目に染みた。
割烹旅館 若松
~潮騒と歴史に抱かれる、老舗の正統派おもてなし~
■おすすめポイント(割烹旅館 若松)
- 大正11年創業。皇族も宿泊された歴史と伝統を誇る老舗旅館
- 全室オーシャンビュー。津軽海峡の絶景を望む客室
- 自家源泉かけ流しの天然温泉を、客室と大浴場で堪能
- ミシュランガイド北海道にも掲載された、本格割烹懐石料理
- きめ細やかで、心に染みる仲居さんの正統派おもてなし
100年以上の長きにわたり、湯の川の地で旅人を迎え入れてきた老舗「若松」。ここは、華美な装飾や最新の設備を誇るのではなく、本物の素材と、磨き上げられたおもてなしの心で客をもてなす、正統派の日本の旅館です。日常の喧騒を忘れ、ただ静かに、上質な時間に浸りたいと願う夫婦にこそ、訪れてほしい場所です。
客室
客室は、職人の技が光る、数寄屋造りの純和室。窓の外には、絵画のように切り取られた津軽海峡の風景が広がります。余計なものは何もない、潔いほどのシンプルさが、かえって心を落ち着かせてくれます。畳に座り、お茶を一杯。それだけで満ち足りた気持ちになれる空間です。
客室露天風呂の時間
一部の特別室には、津軽海峡を望む温泉風呂が備えられています。檜の香りが清々しい湯船に、自家源泉から引かれたお湯が絶え間なく注がれる様は、まさに至福。窓を開け放てば、潮騒がすぐそこに聞こえ、まるで海辺の書斎で湯浴みをしているかのような、静かで知的な時間が流れます。
派手さはありませんが、本質的な豊かさがここにあります。繰り返し寄せる波のように、日々の暮らしの中で少しずつ溜まった心の澱を、ゆっくりと洗い流してくれる。そんな、浄化されるような湯浴みのひとときを、ふたりきりで分かち合うことができます。
共用風呂
敷地内の自家源泉から湧き出るお湯を、かけ流しで楽しめる大浴場。ここからも、もちろん津軽海峡を一望できます。特に、海に面した露天風呂「漁火」は格別です。夜になれば、その名の通り、沖合に揺れる幻想的な漁火を眺めながら湯に浸かることができます。
歴史ある名湯の力を、全身で感じられる場所です。泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物泉。体の芯から温まり、湯上がり後もポカポカとした温もりが続きます。古くから多くの人々の心を癒してきた湯の力を、ぜひご堪能ください。
食事
宿の名前が示す通り、「若松」の真髄は料理にあります。ミシュランガイド北海道で一つ星として掲載されたその腕は、まさに本物。料理長が自ら市場に足を運び、その目で確かめた最高の食材だけを使い、一品一品丁寧に仕上げる懐石料理は、食べる芸術品です。
毛ガニやキンキ、活イカなど、函館ならではの海の幸はもちろん、旬の野菜の扱いも見事。器の美しさ、盛り付けの妙、そして何より、素材の味を最大限に引き出す繊細な仕事。部屋食でゆっくりと、仲居さんの丁寧な説明に耳を傾けながら味わう夕食は、旅の最も深い記憶として心に刻まれることでしょう。
サービス
食事を終え、部屋で寛いでいると、控えめに襖が開いた。
お盆を持った仲居さんが、静かに微笑む。
「夜分に失礼いたします。もしよろしければ、お夜食にどうぞ」
差し出されたのは、小さなおむすび。
「わあ、嬉しい」
妻が声を上げると、仲居さんは「お口汚しでございますが」と、そっとお辞儀をして下がっていった。
派手なサプライズではない。
けれど、そのさりげない心遣いが、じんわりと心に温かい灯りをともす。
これこそが、日本の宿が紡いできた、おもてなしの心なのだと知る。
こんな50代夫婦におすすめ
- 日本の伝統的な旅館で、上質なおもてなしを受けたい夫婦
- ミシュランも認める、本格的な懐石料理をじっくり味わいたい夫婦
- 静かな環境で、ただひたすら海を眺めて心を空にしたい夫婦
アクセス情報
- 住所: 北海道函館市湯川町1丁目2-27
- アクセス: 函館空港から車で約7分、JR函館駅から車で約15分
- 送迎: なし
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
部屋でいただく朝食は、一品一品が丁寧に作られた、日本の正しい朝餉だった。
焼きたてのカレイ、出汁の香る卵焼き、そして、艶やかに炊き上がった白いごはん。
夫が、ぽつりと言った。
「なんだか、こういう朝ごはん、久しぶりだな」
「ええ、本当に。毎日、慌ただしくパンとコーヒーで済ませてしまうから」
妻は、お味噌汁を一口すすり、目を細める。
丁寧な仕事が施された食事は、体に染み渡るだけでなく、心まで豊かにしてくれる。
窓の外では、朝の光を受けた海が、きらきらと輝いている。
特別なことをしなくてもいい。
ただ、美味しいものを美味しいと感じ、美しいものを美しいと思える。
そんな、当たり前だけれど忘れかけていた感覚を、この宿は思い出させてくれた。
「ごちそうさまでした」
ふたりは、揃って静かに手を合わせた。
竹葉 新葉亭
~数寄屋造りの粋と、庭園の緑に癒される閑静な宿~
■おすすめポイント(竹葉 新葉亭)
- 3000坪の広大な敷地に佇む、閑静な純和風旅館
- 四季の移ろいを映す、見事な日本庭園
- 特別室には、庭園を望む専用の露天風呂を完備
- 割烹旅館としての歴史に裏打ちされた、本格的な懐石料理
- 和の情緒に浸りながら、静かで落ち着いた滞在をしたい方に最適
函館の温泉街の中心にありながら、一歩敷地に足を踏み入れると、そこは外界の喧騒が嘘のような静寂に包まれた別世界。3000坪もの敷地に広がる見事な日本庭園と、数寄屋造りの粋を集めた建物が、訪れる人を優しく迎え入れます。華やかさよりも、しっとりとした和の風情と静けさを愛する夫婦のための、隠れ家のような宿です。
客室
客室は、木の温もりと畳の香りが心地よい、伝統的な和の空間。広縁の椅子に腰を下ろせば、手入れの行き届いた庭園の緑が目に優しく映ります。鳥の声や風の音に耳を澄ましながら、ただ何もしない贅沢を味わう。そんな、心安らぐ時間を与えてくれます。
客室露天風呂の時間
最上級の特別室「福寿」には、専用の露天風呂が備えられています。四季折々の表情を見せるプライベートな庭園を眺めながら、誰にも気兼ねすることなく名湯に浸かることができます。石造りの湯船は、大人が足を伸ばしても余りあるほどの広さ。
木々の葉が風にそよぐ音、時折聞こえる鹿威しの澄んだ音。それらすべてが、湯浴みのBGMとなります。まるで、昔の文人墨客が庵で過ごしたかのような、風流で静謐な時間。都会の喧騒の中で張り詰めていた心が、ゆっくりと、やさしく解きほぐされていくのを感じるでしょう。
共用風呂
男女入れ替え制で楽しめる2つの庭園露天風呂が、この宿の自慢です。松の緑が美しい「松の湯」と、紅葉の季節には見事な赤に染まる「紅葉の湯」。それぞれ趣の異なる庭を眺めながらの湯浴みは、まさに日本の温泉情緒そのものです。
豊富な湯量を誇る源泉かけ流しの湯が、広々とした湯船に満たされています。昼は木漏れ日の下で、夜は星空を仰ぎながら、ゆったりと湯の川の名湯を堪能してください。体の芯まで温まった後は、美しい庭を散策するのも一興です。
食事
前身が割烹であったという歴史に裏打ちされた、本格的な懐石料理が宿の誇り。料理長が吟味した北海道の旬の食材を、伝統的な技法で丁寧に仕上げた料理が、一品ずつ絶妙なタイミングで運ばれてきます。
派手さはありませんが、一口食べればその仕事の丁寧さが伝わってくる、滋味深い味わいが魅力です。落ち着いた個室の食事処で、夫婦水入らず、ゆっくりと食事の時間を楽しむことができます。食を通して、北の大地の豊かさと、日本の食文化の奥深さを感じられることでしょう。
サービス
夕食後、庭園を散策していた時のこと。
小径の先に、ほのかな灯りが見えた。
近づいてみると、それは小さな茶室だった。
「あら、素敵な場所」
妻が感嘆の声をあげる。
ふと、着物姿の宿の女性が通りかかり、にこやかに会釈をした。
「あちらは『無作の庵』と申しまして。よろしければ、中で少しお休みになりますか」
その誘いは、あまりにも自然で、押しつけがましさがない。
ただ静かに、客がこの宿の空気を味わうための、さりげない手助け。
奥ゆかしく、それでいて温かい。
そんなおもてなしの心が、宿の隅々にまで満ちている。
こんな50代夫婦におすすめ
- 都会の喧騒を離れ、静かな和の空間で心から癒されたい夫婦
- 美しい日本庭園を眺めながら、ゆったりと過ごしたい夫婦
- 派手さよりも、滋味深い本格的な和食を好む夫婦
アクセス情報
- 住所: 北海道函館市湯川町2丁目6-28
- アクセス: 函館空港から車で約10分、JR函館駅から車で約20分
- 送迎: なし
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
朝、障子を開けると、雨上がりの庭が瑞々しい緑に輝いていた。
濡れた苔の匂いが、清々しい空気に混じっている。
縁側に並んで座り、ふたりでただ黙って庭を眺める。
言葉はない。
けれど、同じものを見て、同じ空気を感じている。
それだけで、十分だった。
「なんだか、心が洗われるようだね」
夫の言葉に、妻は静かに頷いた。
若い頃は、もっとたくさんの言葉を交わし、賑やかな場所を求めていたかもしれない。
けれど、人生の午後を歩む今、心から求めるのは、こういう静かな時間なのだと知る。
雨粒をまとった紫陽花が、ひときわ鮮やかに咲いている。
ふたりの時間も、この庭のように、これからもっと深く、美しくなっていく。
そんな穏やかな予感が、胸に満ちてくる。
まとめ|さあ、ふたりの時間を紡ぐ旅へ
函館・湯の川温泉で、夫婦ふたりのための特別な時間を提供する5つの宿をご紹介しました。
- 望楼NOGUCHI函館: アートと夜景に包まれる、知的な贅沢を。
- HAKODATE 海峡の風: 食のエンターテイメントで、旅の喜びを分かち合う。
- 湯の川プリンスホテル渚亭: どこまでも続く海を眺め、心を解放する。
- 割烹旅館 若松: 伝統と歴史が薫る空間で、本物のおもてなしに触れる。
- 竹葉 新葉亭: 静寂の庭に癒され、和の心を取り戻す。
子育てが終わり、仕事も一つの節目を迎える50代。それは、失われた時間を取り戻すのではなく、新しい時間を始めるための、人生の素晴らしい転換期です。
さあ、次の休日は、パートナーの手を取り、函館へ旅に出ませんか。客室露天風呂の湯けむりの向こうに、ふたりの新たな物語が、きっと見つかるはずです。