なぜ、人生の後半、賢い夫婦は旅先に福井・あわら温泉を選ぶのか
子育てという長い旅路を終え、ふと隣を見れば、少しだけ髪に白いものが混じり、笑い皺が深くなったパートナーがいる。休む間もなく駆け抜けた日々を労うように、今、多くの夫婦が探し求めているのは、ただ美しいだけの景色ではない。失われた時間を取り戻し、言葉にしなくても心が通い合うような、静かで満たされたひとときだろう。
「関西の奥座敷」と称される福井・あわら温泉は、そんな円熟した大人たちの旅先にふさわしい品格と落ち着きを湛えている。派手さはないが、しっとりとした湯の香が漂う街並み。日本海の海の幸と越前の豊かな大地が育んだ、滋味深い食。そして何より、訪れる人の心に寄り添う、細やかで温かいもてなしの心。
この地にある上質な宿の露天風呂付き客室は、単なる豪華な設備ではない。それは、誰にも邪魔されることなく、夫婦ふたりだけの時間と空間を取り戻すための、いわば「舞台装置」なのだ。湯けむりの向こうにパートナーの穏やかな横顔を見つめるとき、これまで言えなかった感謝の言葉が、自然とこぼれ落ちるかもしれない。さあ、ふたりの物語の新しい章を、あわら温泉から始めよう。
グランディア芳泉
~庭園と湯のシンフォニー、北陸随一のスケールが紡ぐ贅沢な休日~
■おすすめポイント(グランディア芳泉)
- 北陸最大級のスケールを誇る、開放感あふれる温泉大浴場「天上のSPA」
- 趣の異なる客室露天風呂が揃う、特別な離れ「別邸 個止吹気亭」
- 四季の移ろいを映す壮大な日本庭園を眺めながらの滞在
- 越前がにや若狭牛など、福井のスター食材を堪能できる多彩な食のスタイル
- エステやラウンジなど、館内施設が充実しており連泊でも飽きさせない
日本庭園の緑と、どこまでも続く青い空。グランディア芳泉は、その圧倒的なスケール感で訪れる者を優しく迎え入れる。館内に一歩足を踏み入れれば、日常の喧騒は遠く過ぎ去り、ただゆったりとした時間が流れ始める。特に、全室に温泉露天風呂を備えた離れ「別邸 個止吹気亭」は、夫婦ふたりのための聖域。ここでは、ただ湯に浸かり、庭を眺め、語り合うだけでいい。何もしない贅沢が、最高の思い出を紡いでくれる。
客室
「別邸 個止吹気亭」には、庭園を間近に感じる1階の「ガーデンスイート」や、空と庭を見渡す2階の「コンフォートスイート」など、趣の異なる16室が用意されている。伝統的な和の設えに、現代的な快適さを融合させた空間は、まさに大人のための隠れ家。吟味された調度品に囲まれ、ふたりだけの静かな時間を過ごすことができる。
客室露天風呂の時間
檜の香りがふわりと鼻腔をくすぐる湯船に、そっと体を沈める。目の前に広がるのは、手入れの行き届いた緑鮮やかな日本庭園。サラサラと音を立てて湯口から注がれる源泉は、肌を優しく包み込み、体の芯からじんわりと解きほぐしていくようだ。
鳥のさえずりだけが聞こえる静寂の中、どちらからともなく、昔話に花が咲く。初めてのデートの記憶、子育てに奮闘した日々。湯けむりの向こうに見えるパートナーの笑顔が、少しだけ若返ったように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。ここでは時間がゆるやかに流れ、普段は照れくさくて言えない言葉さえ、素直に伝えられる気がする。
共用風呂
この宿の真骨頂ともいえるのが、北陸最大級のスケールを誇る大浴場「天上のSPA」。広々とした内湯はもちろん、開放感抜群の露天風呂では、あわらの空を独り占めするような贅沢な湯浴みが楽しめる。
趣の異なる様々なお風呂が点在し、夫婦で「次はあのお風呂に入ってみようか」と話しながら館内を散策するのも楽しい。湯上がりには、庭園を望むラウンジで喉を潤し、火照った体をゆっくりとクールダウンさせる。そのすべてが、ふたりの旅の豊かな時間となるだろう。
食事
グランディア芳泉の食は、まさに福井の恵みのショーケース。冬の味覚の王様「越前がに」をはじめ、とろけるような肉質の「若狭牛」、日本海で獲れたばかりの新鮮な魚介類。これらの最高級の食材が、熟練の料理人の手によって、一皿一皿、芸術品のような料理へと昇華される。
個室の食事処で、ふたりのペースでゆっくりと料理を味わう時間は、何物にも代えがたい贅沢だ。料理に合わせて選んだ地酒を酌み交わせば、会話も自然と弾み、旅の夜はさらに深く、思い出深いものになる。
サービス
夕食を終え、部屋に戻る途中のラウンジ。
暖炉の炎が、静かに揺らめいている。
「少し、休んでいこうか」
夫の提案に、妻は黙って頷いた。
ソファに深く腰を下ろし、窓の外に広がるライトアップされた庭園を眺める。
スタッフがそっと差し出してくれた温かいハーブティーの香りが、心を穏やかにしていく。
言葉は少ない。
けれど、同じ景色を見つめるその時間には、言葉以上の確かな温もりが流れている。
こんな50代夫婦におすすめ
- 広々とした開放的な空間で、心身ともにリフレッシュしたい夫婦
- 趣の異なる様々なお風呂を巡る「湯めぐり」を楽しみたい夫婦
- 越前がにや若狭牛など、福井ならではの美食を心ゆくまで堪能したい夫婦
アクセス情報
- 住所: 福井県あわら市舟津43-26
- アクセス: JR北陸本線「芦原温泉駅」より車で約15分
- 送迎: 芦原温泉駅より無料送迎バスあり(定時運行)
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
部屋の露天風呂から上がり、バスローブを羽織ってテラスの椅子に腰かける。
ひんやりとした夜気が、火照った肌に心地よい。
隣に座った夫が、夜空を指さした。
「星が、きれいだな」
「ええ、本当に」
昔、子供たちを連れて行ったキャンプ場も、こんな星空だった。
あの頃は、子供たちの声が夜空に響いていた。
今は、虫の音と、風が木々を揺らす音だけが聞こえる。
静かだね、と妻が言うと、夫は「ああ」と短く応えた。
その一言に、寂しさではなく、満ち足りた安らぎがこもっているのを妻は感じた。
失った時間ではない。
これは、ふたりで積み重ねてきたからこそたどり着いた、新しい時間の始まり。
グラスに注がれた冷たい水が、星の光を映して、静かにきらめいている。
光風湯圃 べにや
~全17室、源泉かけ流しの湯と向き合う、静謐な大人のための隠れ家~
■おすすめポイント(光風湯圃 べにや)
- 全17室すべてに源泉かけ流しの半露天風呂を完備したプライベート空間
- 数寄屋造りの粋を集めた、日本の伝統美を感じる上質な客室
- 福井の伝統工芸品「笏谷石」や吉野檜など、こだわりの素材を随所に使用
- 料理人の感性が光る、月替わりの創作懐石料理
- チェックアウトが11時と、翌朝もゆったりと過ごせる時間設定
「光風湯圃(こうふうゆでん)」という名が示す通り、光と風、そして湯が心地よく調和する宿、べにや。わずか17室という贅沢な空間は、大人の夫婦が心から寛ぐために設えられている。全ての客室に源泉かけ流しの半露天風呂があり、誰にも気兼ねすることなく、ただひたすらに湯と向き合う時間を過ごせる。日本の伝統的な建築美とモダンな感性が融合した空間で、日常を忘れ、ふたりの時間に深く浸る。そんな本質的な豊かさがここにはある。
客室
数寄屋造りの粋を尽くした客室は、一室一室が異なる表情を持つ。広々とした特別室から、坪庭が印象的な落ち着いた客室まで、どの部屋も静寂と気品に満ちている。ベッドには奈良県吉野産のヒノキを使用するなど、細部にまでこだわりが光る。窓から見える四季折々の庭の景色が、まるで一枚の絵画のようにふたりの時間を彩る。
客室露天風呂の時間
福井の歴史が息づく青みがかった「笏谷石(しゃくだにいし)」で造られた湯船。そこに、絶え間なく注がれる源泉かけ流しの湯。半露天の窓を開ければ、心地よい風が湯けむりと共に肌を撫でていく。プライベートな空間だから、時間を気にすることもない。
湯船の縁に腰かけ、庭の緑を眺めながら交わす、とりとめのない会話。仕事のこと、これからの暮らしのこと。熱い湯が心を解きほぐし、普段は少し気恥ずかしい本音さえ、素直に語り合える。この湯船は、ただ体を温める場所ではなく、ふたりの心を温め、結びつきを確かめ合うための特別な場所になる。
共用風呂
こちらの宿には、大浴場などの共用風呂は用意されていません。
それは、全客室に備えられた専用の露天風呂で、誰にも気兼ねすることなく、ふたりの時間を心ゆくまで楽しんでほしいという、宿の哲学の表れです。チェックインからチェックアウトまで、湯は常にふたりのもの。その究極のプライベート感が、べにやが提供する何よりの贅沢と言えるでしょう。
食事
べにやの食事は、宿のもう一つの顔。料理長が自ら市場に足を運び、その目で確かめた旬の食材だけを使う。越前の海が育んだ海の幸、里山がもたらす山の幸。それらが、伝統的な懐石料理の技法を基盤としながらも、斬新な感性で新たな一皿へと生まれ変わる。
月替わりの献立は、訪れるたびに新しい驚きと感動を与えてくれる。器の一つひとつにもこだわりが感じられ、目でも舌でも、存分に福井の旬を味わい尽くすことができる。お部屋のダイニングで、ふたりだけの空間でゆっくりと食事を楽しめるのも嬉しい。
サービス
食事が終わり、部屋で寛いでいると、コンコン、と控えめなノックの音。
「夜食をお持ちいたしました」
仲居さんが運んできてくれたのは、小さなおひつに入った炊き込みご飯のおにぎりだった。
「わあ、美味しそう」
妻が声を上げる。
「少し小腹が空いただろうと思って」
夫が優しく微笑む。
派手なサービスではない。
けれど、そのさりげない心遣いが、じんわりと心に沁みる。
湯気の立つおにぎりを頬張りながら、ふたりは顔を見合わせて笑った。
こんな50代夫婦におすすめ
- 誰にも邪魔されない、完全なプライベート空間で過ごしたい夫婦
- 日本の伝統建築や数寄屋造りの美しさをじっくりと味わいたい夫婦
- 量より質を重視した、料理人の感性が光る創作料理を好む夫婦
アクセス情報
- 住所: 福井県あわら市温泉4-510
- アクセス: JR北陸本線「芦原温泉駅」より車で約10分
- 送迎: 芦原温泉駅より送迎あり(要予約)
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
部屋の明かりを落とすと、坪庭が静かな光に照らし出される。
障子窓の向こう、半露天風呂から聞こえる湯の音が、まるで心地よい音楽のようだ。
「何だか、ずっと昔からここにいるみたいだな」
読書をしていた夫が、ふと顔を上げて言った。
妻は、編み物をしていた手を休め、その言葉の意味を考える。
そうだ、ここは初めて訪れた場所のはずなのに、不思議なくらい心が落ち着く。
それはきっと、この宿が持つ静けさと、隅々まで行き届いた美意識が、自分たちの求めていたものとぴったり合っているから。
「また、来ましょうね。違う季節に」
妻が言うと、夫は静かに頷いた。
言葉はいらない。
ふたりの間には、同じ想いが流れている。
またこの場所で、ふたりの時間を重ねていく。
そんな未来の約束が、静かに交わされた夜だった。
伝統旅館のぬくもり 灰屋
~明治十七年創業、歴史が薫る離れで過ごすノスタルジックな時間~
■おすすめポイント(伝統旅館のぬくもり 灰屋)
- 創業明治17年の歴史と風格が息づく、趣深い木造建築
- 庭園を囲むように点在する、プライベート感あふれる離れ「松風庵」
- 離れ客室の多くに、源泉かけ流しの露天風呂を完備
- 福井の旬の幸を、伝統的な技法で丁寧に仕上げた会席料理
- 2025年2月にオープンした本格的なガーデンサウナで「ととのう」体験も
一歩足を踏み入れた瞬間、明治の時代へタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。創業以来、多くの文人墨客に愛されてきた「灰屋」は、その歴史が醸し出す重厚な空気感そのものが魅力。特に、美しい庭園を囲むように建てられた離れ「松風庵」は、格別な静けさとプライバシーを約束してくれる。古き良き日本の旅館の温もりを感じながら、源泉かけ流しの湯に浸かる。そんな、どこか懐かしくも贅沢な時間を過ごしたい夫婦にぴったりの宿だ。
客室
離れ「松風庵」は、全室が異なる設え。創業当時の趣を残した客室は、磨き上げられた柱や欄間、雪見障子など、日本の伝統建築の美しさを随所に感じることができる。源泉かけ流しの露天風呂が付いた客室を選べば、歴史ある庭園の景色を眺めながら、心ゆくまで湯浴みを満喫できる。
客室露天風呂の時間
信楽焼の丸い湯船に、なみなみと注がれた源泉かけ流しの湯。歴史を重ねた庭の木々が、湯面に静かな影を落としている。聞こえてくるのは、葉が擦れる音と、時折聞こえる鳥の声だけ。ここは、忙しない日常から完全に切り離された、特別な時間が流れる場所。
「昔、泊まった旅館を思い出すな」夫が懐かしそうに呟く。あの頃はまだ若く、がむしゃらに働いていた。今、こうして隣に座り、同じ景色を眺めていることが不思議で、そして何より愛おしい。湯けむりがふたりの間を柔らかく満たし、言葉にしなくてもお互いの労いが伝わるような、穏やかな時間が過ぎていく。
共用風呂
男女それぞれに趣の異なる大浴場があり、広々とした空間で手足を伸ばして湯浴みを楽しめる。特に、庭園の緑を眺めながら入る露天風呂は格別の心地よさだ。
さらに、2025年2月には本格的なガーデンサウナがオープン。本場フィンランドのスモークサウナを再現した空間でロウリュを体験し、外気浴で「ととのう」時間は、温泉とはまた違った心身のリフレッシュをもたらしてくれる。温泉とサウナ、両方を愉しめるのもこの宿の大きな魅力となっている。
食事
灰屋が守り続けるのは、奇をてらわない、実直な日本の味。地物と鮮度にこだわり、福井の豊かな食材を、熟練の料理人が一品一品、丁寧に仕上げていく。季節の移ろいを感じさせる八寸、お造りで味わう日本海の幸、そして心温まる煮物。
その一皿一皿からは、食材への感謝と、食べる人への思いやりが伝わってくる。派手さはないかもしれないが、口にするたびに「ああ、美味しいね」と自然に言葉がこぼれる。そんな、心に染み渡るような優しい味わいの会席料理だ。
サービス
湯上がりに、浴衣姿で縁側に腰かける。
「どうぞ」
いつの間にか背後にいた仲居さんが、冷たい麦茶の入ったグラスを置いてくれた。
「ありがとうございます」
礼を言うと、にこりと微笑んで静かに下がっていく。
その距離感が、絶妙で心地よい。
グラスについた水滴がきらりと光る。
「こういうのが、いいんだよな」
夫がぽつりと言った。
妻も黙って頷く。
過剰ではなく、けれど、いてほしい時にすっと現れる。
老舗旅館ならではの、呼吸のようなおもてなしが、旅の満足度を深く、静かに高めてくれる。
こんな50代夫婦におすすめ
- 歴史や風格のある、日本の伝統的な旅館の雰囲気が好きな夫婦
- 静かな離れで、プライベートな時間を大切に過ごしたい夫婦
- 温泉だけでなく、本格的なサウナも楽しんでみたい夫婦
アクセス情報
- 住所: 福井県あわら市温泉2-205
- アクセス: JR北陸本線「芦原温泉駅」より車で約15分
- 送迎: 芦原温泉駅、えちぜん鉄道あわら湯のまち駅より送迎あり(要予約)
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
雨が、降っていた。
離れの露天風呂に浸かると、ぽつ、ぽつ、と冷たい雫が火照った肩に落ちる。
庭の木々や苔は、雨に濡れて一層色を深めていた。
「雨も、いいね」
妻が言う。
「静かでいい」
夫が応える。
晴れの日ばかりが、良い日ではない。
人生と同じだ、とふたりは思った。
嬉しい日もあれば、悲しい日もある。
嵐の日もあれば、こんな風に静かに雨が降る日もある。
そのすべてを共に乗り越えてきたから、今、こうして穏やかに雨音を聞いていられる。
湯船に広がる波紋を眺めながら、ふたりは言葉もなく、ただ静かに流れていく時間を共有していた。
雨上がりの空には、きっと虹がかかるだろう。
ふたりのこれからの人生のように。
越前あわら温泉 つるや
~数寄屋造りの名工が手掛けた館で、100%源泉かけ流しを心ゆくまで~
■おすすめポイント(越前あわら温泉 つるや)
- 敷地内の3本の自家源泉から引く、加水・加温なしの100%天然温泉
- 数寄屋造りの名工・平田雅哉氏が手掛けた、芸術的な建築美
- 趣の異なる露天風呂付き客室「大観」「観月」で贅沢な湯浴み
- 日本庭園を眺めながら、個室の食事処でいただく四季の懐石料理
- 温泉たまご作り体験など、源泉の豊かさを感じられるおもてなし
本物の温泉を求める旅慣れた大人たちが、最後に行き着く宿。それが「つるや」かもしれない。最大の誇りは、敷地内から湧き出る3本の自家源泉。加水も加温も一切しない、正真正銘100%の源泉かけ流しを、館内のすべての湯処で堪能できる。さらに、昭和を代表する数寄屋造りの名工・平田雅哉氏が手掛けた建築は、それ自体がひとつの芸術品。本物の湯と、本物の建築美。そのふたつが織りなす極上の空間で、心も体も本来の姿を取り戻していく。
客室
平田雅哉氏の美意識が隅々まで息づく客室は、静謐という言葉がふさわしい。特に、露天風呂付きの特別室「大観」と「観月」は、この宿の粋を集めた空間。広々とした和室から続く露天風呂では、由緒ある日本庭園を眺めながら、誰にも邪魔されることなく名湯を独り占めできる。2024年春には、半露天風呂を備えた新しい客室「双鶴」「寿鶴」も誕生し、新たな魅力が加わった。
客室露天風呂の時間
岩をくり抜いて作られた、野趣あふれる湯船。そこに、ほんのりと硫黄の香りがする黄金色の湯が、惜しげもなく注がれては流れ去っていく。これこそが、つるやが誇る100%の源泉かけ流し。肌に触れる湯は、驚くほど柔らかく、とろりとしている。
湯船に体を預け、空を見上げれば、木々の葉が風にそよぎ、合間から青空がのぞく。聞こえるのは、湯が流れ落ちる音と、鳥のさえずりのみ。これ以上、何を望むことがあるだろうか。ただただ、この湯の恵みに感謝し、身を委ねる。そんな原点に立ち返らせてくれるような、深く、満ち足りた時間がここにはある。
共用風呂
男女入れ替え制の大浴場「福の湯」「芦の湯」も、もちろん全てが源泉かけ流し。広々とした内湯と、風情豊かな庭園露天風呂で、つるやの湯の良さを存分に味わうことができる。循環風呂との違いは、一度入れば誰もが実感するはず。湯から上がった後の、肌のすべすべ感と、体の芯から続く温もりがその証だ。
また、予約制の貸切風呂「つるの巣」もあり、よりプライベートな空間で名湯を楽しみたい夫婦におすすめ。庭園には足湯もあり、散策の途中に気軽に源泉の温かさに触れることができるのも嬉しい。
食事
食事は、庭園を望む個室の食事処でいただく。プライベートが保たれた空間で、ふたりのペースでゆっくりと四季の懐石料理を堪能できる。料理長が腕を振るうのは、日本海の海の幸、越前の山の幸をふんだんに取り入れた、季節感あふれる品々。
一品一品丁寧に作られた料理は、滋味深く、体に優しく染み渡る。本物の温泉で体を癒し、旬の食材を使った美味しい料理で内側から満たされる。これこそが、日本の旅館が提供する最高の贅沢かもしれない。
サービス
チェックインを済ませ、庭を散策していると、湯気が立ち上る一角があった。
そこには、温泉たまごを作るための場所が用意されている。
「やってみるか?」
夫に促され、生卵を網の袋に入れて、そっと源泉に浸す。
待つこと、しばし。
出来上がった温泉たまごをふたりで頬張る。
「うん、うまい」
ほんのり温かく、とろりとした黄身が口の中に広がる。
この宿の温泉が、本物であることの何よりの証。
豪華な演出ではないけれど、こんなささやかな体験が、旅の記憶を色鮮やかにしてくれる。
こんな50代夫婦におすすめ
- 泉質にとことんこだわり、本物の源泉かけ流しを体験したい夫婦
- 数寄屋造りなど、日本の伝統的な建築美に心惹かれる夫婦
- 静かで落ち着いた、老舗旅館ならではの風格を好む夫婦
アクセス情報
- 住所: 福井県あわら市温泉4-601
- アクセス: JR北陸本線「芦原温泉駅」より車で約10分
- 送迎: 芦原温泉駅より送迎あり(要予約)
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
夜、部屋の露天風呂に浸かりながら、夫がぽつりと言った。
「平田雅哉って建築家、知ってるか?」
「いいえ、知らないわ」
「この旅館を建てた人だ。すごいよな、木だけでこんな美しいものを作るんだから」
夫は若い頃、建築家になりたかったのだと、妻はふと思い出した。
夢は叶わなかったけれど、今でも古い建物や美しいデザインを見るのが好きだ。
そんな夫が、少年のように目を輝かせながら、柱や欄間の細工について語る。
妻は、その横顔を愛おしく思った。
知らなかった一面。
忘れていた一面。
旅は、いつも新しい発見をくれる。
それは、景色のことだけではない。
一番近くにいる、パートナーのことさえも。
湯けむりの向こうで、夫の笑顔が優しく揺れていた。
まつや千千
~多彩な湯船と食の愉しみ、華やぎと寛ぎが調和する温泉リゾート~
■おすすめポイント(まつや千千)
- 男女合わせて30種類以上もの湯船が揃う、北陸最大級の温泉大浴場
- 全室源泉露天風呂付きの特別フロア「時忘れ離座」で過ごす優雅な時間
- 専用の食事処でいただく、プライベート感を重視したダイニングスタイル
- 開放的な吹き抜けのラウンジなど、リゾート感あふれるパブリックスペース
- 豊富な客室タイプと宿泊プランで、様々なニーズに対応できる柔軟性
あわら温泉の中でもひときわ大きな存在感を放つ「まつや千千」。その魅力は、何と言っても温泉と食のエンターテインメント性にある。北陸最大級を誇る大浴場では、多種多様な湯船を巡る「湯めぐり」が楽しめ、何度訪れても新しい発見がある。一方で、全室に源泉露天風呂を備えた特別フロア「時忘れ離座」は、静けさとプライバシーを求める大人にぴったりの空間。華やかなリゾートの楽しさと、しっとりとした和の寛ぎ。その両方を、自分たちのスタイルで自由に楽しみたい夫婦に最適な宿だ。
客室
まつや千千の客室は、多彩なニーズに応える豊富なラインナップが魅力。その中でも、50代夫婦におすすめしたいのが、特別フロア「時忘れ離座(ときわすれりざ)」。全室に源泉かけ流しの露天風呂が備えられ、上質な寛ぎを演出する。和室、和洋室、ツインなど、趣の異なる部屋が用意されており、専用の食事処で食事をいただく、ワンランク上の滞在が約束されている。
客室露天風呂の時間
陶器でできた趣のある湯船に、とくとくと音を立てて源泉が注がれる。ベランダに設えられた露天風呂は、まさにふたりだけの特等席。あわらの街の灯りを遠くに眺めながら、あるいは満点の星空を見上げながら、好きな時間に好きなだけ湯浴みを楽しめる。
賑やかな大浴場も良いけれど、ふたりきりで語り合うなら、やはりこの空間が一番だ。湯船に肩まで浸かり、今日一日の出来事を話す。子供たちのこと、これからのふたりのこと。尽きることのない会話が、湯の温かさと相まって、心をじんわりと満たしていく。この自由で、何にも縛られない時間こそが、旅の醍醐味なのだ。
共用風呂
「千のこぼれ湯」と名付けられた大浴場は、この宿のハイライト。男女合わせて30を超える湯船が点在し、まさに温泉のテーマパークのようだ。広大な敷地には、大きな岩風呂や檜風呂、寝湯、うたせ湯など、趣向を凝らしたお風呂がずらり。
夫婦で別々に湯を楽しんだ後、「あのお風呂、気持ちよかったよ」「今度はあっちに入ってみよう」と湯上がりに感想を語り合うのもまた一興。そのスケールの大きさと遊び心は、日常を忘れさせ、童心に帰ったようなワクワク感を与えてくれるだろう。
食事
まつや千千では、食事のスタイルも多彩。「時忘れ離座」に宿泊のゲストは、専用のダイニング「千代見草」で、プライベート感あふれる食事を楽しめる。オープンキッチンから運ばれてくる出来立ての料理は、福井の旬の食材をふんだんに使った逸品揃い。
料理人の手さばきを間近に見ながら、五感で味わう食の時間は、旅の思い出をより一層豊かなものにしてくれる。旬の幸を盛り込んだ会席料理に舌鼓を打ちながら、ふたりの会話も自然と弾むことだろう。
サービス
広い館内を散策していると、開放的な吹き抜けのラウンジに出た。
大きな窓からは陽光が差し込み、ゆったりとしたソファがいくつも置かれている。
「コーヒーでも飲むか」
ラウンジのカフェでコーヒーを注文し、窓際の席に座る。
何をするでもなく、行き交う人々を眺めたり、窓の外の景色を見たり。
「広い旅館も、いいものね」
妻が呟く。
部屋で静かに過ごすのもいい。
でも、たまにはこんな風に、少し華やかな空間に身を置くのも気分が変わっていい。
それぞれの時間を過ごし、またふたりの時間に戻る。
そんな自由さが、心地よかった。
こんな50代夫婦におすすめ
- 趣向を凝らした様々なお風呂で「湯めぐり」を楽しみたい夫婦
- プライベートな寛ぎと、リゾートのような華やかさの両方を求める夫婦
- オープンキッチンなど、ライブ感のある食事スタイルが好きな夫婦
アクセス情報
- 住所: 福井県あわら市舟津31-24
- アクセス: JR北陸本線「芦原温泉駅」より車で約15分
- 送迎: 芦原温泉駅より無料送迎バスあり(定時運行)
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
「時忘れ離座」という名前が、いいね。
部屋の露天風呂に浸かりながら、夫が言った。
本当に、時間を忘れてしまいそうだ。
チェックインしてからの数時間が、もう何日も前のことのように感じる。
時計の針の進みが、ここでは違うのかもしれない。
「忘れたいことなんて、あったかしら」
妻が冗談めかして尋ねる。
「忘れたいこと、というよりは、一度立ち止まって、これまでを振り返る時間かな」
夫は空を見上げながら答えた。
そうだ、私たちは、走り続けてきた。
仕事、子育て、家のこと。
たくさんの役割を背負って、前だけを見て。
今、この湯船で、ようやく肩の荷を下ろせた気がする。
忘れるのではない。
大切な時間を、もう一度、この場所で思い出すために。
ふたりは、ぬるめの湯に身を委ね、静かに流れる雲をいつまでも見つめていた。
まとめ|さあ、ふたりの時間を紡ぐ旅へ
福井・あわら温泉に佇む、50代の夫婦にこそ訪れてほしい5つの上質な宿をご紹介しました。
- グランディア芳泉: 圧倒的なスケールと庭園美の中で、王道の贅沢を味わう。
- 光風湯圃 べにや: 全17室のプライベート空間で、静謐な湯浴みと創作料理に浸る。
- 伝統旅館のぬくもり 灰屋: 明治の薫る離れで、歴史と温泉、サウナを愉しむ。
- 越前あわら温泉 つるや: 100%源泉かけ流しの名湯と、数寄屋造りの建築美に酔いしれる。
- まつや千千: 華やかな温泉リゾートで、湯めぐりと美食のエンターテインメントを体験する。
どの宿にも、ふたりの時間を深く、温かく紡ぐための舞台が用意されています。
子育てが一段落し、これからはふたりの人生を歩んでいく。その新たな門出に、あわら温泉への旅は、最高の贈り物になるはずです。湯けむりの中で交わす言葉、共に眺める景色、味わう一皿。そのすべてが、これからのふたりの物語を、より豊かに彩っていくことでしょう。
さあ、次の休日は、パートナーの手を取り、あわら温泉へ。ふたりの時間を紡ぎ直す、忘れられない旅に出かけませんか。