なぜ賢明な夫婦は、人生の後半に石和温泉を選ぶのか
子育てという長い旅路を終え、ようやく手にしたふたりの時間。さて、どこへ行こうか。そんな問いに、多くの賢明な夫婦が「石和温泉」と答えるのには理由があります。
都心からわずか90分。手を伸ばせば届くこの地に、彼らが求めるすべてがあるからです。ここは、単なる温泉地ではありません。日本有数のワイン産地として知られ、芳醇な香りが日常を忘れさせ、桃や葡萄の畑が広がる牧歌的な風景は、心をどこまでも穏やかにしてくれます。
それはまるで、夫婦が重ねてきた豊かな時間そのもの。若い頃の情熱的な旅とは違う、静かで、満ち足りた、そして少しだけ贅沢な時間。ここでは、部屋の露天風呂から聞こえるのは、風の音と隣にいるパートナーの息遣いだけ。最高級の甲州牛とワインに舌鼓を打ちながら、言葉少なでも心が通い合う。
石和温泉は、これからの人生をふたりでどう歩んでいくかを、そっと語りかけてくれる場所なのです。本記事では、そんな「ふたりのための時間」を約束してくれる、露天風呂付き客室を備えた珠玉の宿を5軒、厳選してご紹介します。
銘石の宿 かげつ
~六千坪の庭園が紡ぐ、静寂という名の贅沢~
■おすすめポイント(銘石の宿 かげつ)
- 全国から集められた銘石・奇石が配された圧巻の日本庭園
- 一万匹の錦鯉が優雅に泳ぐ池を眺めながらの非日常体験
- 数寄屋造りの気品あふれる客室で過ごす、上質な時間
- 庭園を望む露天風呂付き客室でのプライベートな湯浴み
- 甲州の旬の幸を、熟練の技で仕上げた伝統の会席料理
創業以来、多くの文化人に愛されてきた「銘石の宿 かげつ」。その名の通り、この宿の主役は、六千坪もの広大な敷地に広がる日本庭園です。一歩足を踏み入れれば、そこは都会の喧騒とは無縁の世界。計算され尽くした自然の美が、夫婦の心を静寂で満たしていきます。ただ庭を眺める、鯉の動きに目をやる。そんな何気ない時間が、ここでは最高の贅沢になるのです。
客室
数寄屋造りの客室は、日本の伝統建築の美しさと、現代の快適性が見事に調和した空間です。特に露天風呂付きの客室「庭の離れ」や「風の離れ」は、プライベートな滞在を望む夫婦に最適。窓の外に広がる庭園の緑が、まるで一枚の絵画のようにふたりの時間を彩ります。
客室露天風呂の時間
客室の露天風呂は、信楽焼の柔らかな質感を持つ湯船。その縁に腰を下ろすと、目の前には手入れの行き届いた庭の緑が広がり、滝の音がかすかに聞こえてきます。それは、完全に外界と遮断された、ふたりだけの聖域です。
湯船に体を沈めれば、アルカリ性単純泉の滑らかな湯が、長年の旅の疲れを優しく溶かしていくよう。春には桜、夏は深緑、秋は紅葉、冬は雪景色と、湯船に浸かりながらにして、日本の四季の移ろいを肌で感じることができます。ワイングラスを片手に、これまでのこと、これからのことを、言葉を探さずに語り合える。そんな、満ち足りた時間がここに流れています。
共用風呂
この宿を訪れたなら、ぜひ大露天風呂へも足を運んでみてください。庭園と一体化したような開放感あふれる空間は、圧巻の一言。特に、巨石を配した男性用の大露天風呂「巨石風呂」と、女性用の「大理石風呂」は、宿の美学を象徴する場所です。
夕食後、少しお酒が抜けた頃に、浴衣姿で庭園を散策しながら大浴場へ向かう。そんな館内での小さな冒険もまた、旅の楽しみの一つ。広々とした湯船で手足を伸ばせば、日頃のしがらみから解放され、心がすっと軽くなるのを感じるはずです。
食事
食事は、山梨が誇る旬の食材をふんだんに使用した、目にも美しい会席料理。甲州牛の溶けるような旨味、川魚の繊細な味わい、そして瑞々しい果物。一品一品に、料理長の丁寧な仕事と、もてなしの心が宿ります。
特に、食事処「桃源亭」は個室も完備しており、周りを気にすることなく、ふたりだけの食事が楽しめます。山梨のワイナリーから厳選されたワインリストを眺めながら、今宵の一本を選ぶ時間もまた格別。料理とワインが織りなすマリアージュが、夫婦の会話を一層豊かにしてくれることでしょう。
サービス
ラウンジの窓から、ライトアップされた庭園を眺めていた。
「見事なものだな。何十年もかけて、こうなるのか」
夫の言葉に、妻は静かに頷く。
しばらくして、宿のスタッフがそっと近づき、小さな声をかけた。
「もしよろしければ、あちらの餌で、鯉に語りかけてみてはいかがでしょう」
差し出された小箱には、鯉の餌。
二人が池のほとりに立つと、錦鯉たちが優雅に集まってくる。
その光景は、まるで時が止まったかのようだった。
こんな50代夫婦におすすめ
- 美しい日本庭園を眺めながら、静かな時間を過ごしたい夫婦
- 伝統と格式を重んじる、本物志向の旅を求める夫婦
- ワインと美食のマリアージュを心ゆくまで楽しみたい夫婦
アクセス情報
- 住所: 山梨県笛吹市石和町川中島385
- アクセス: JR中央本線「石和温泉駅」より車で約5分
- 送迎: 石和温泉駅より送迎あり(要事前連絡)
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
チェックアウトの朝、もう一度、庭の見える縁側に座った。
昨夜、露天風呂で少し飲み過ぎた夫が、ほうじ茶をすすっている。
「結局、ほとんど部屋とこの庭で過ごしたな」
「ええ、それで十分だったわ」
妻が微笑む。
観光地を巡る旅もいい。
でも、今の私たちには、ひとつの場所に深く根を下ろし、ただ時間を味わうような旅が必要だったのかもしれない。
池の鯉が、ゆったりと水面を揺らす。
まるで、これからのふたりの時間を祝福するように。
「また、季節を変えて来てみようか」
夫のその言葉に、妻は黙って頷いた。
言葉はいらない。
この庭園が、私たちの新しい約束の場所になる。
糸柳別館 離れの邸 和穣苑
~全12室の隠れ家で、誰にも邪魔されない時間を紡ぐ~
■おすすめポイント(糸柳別館 離れの邸 和穣苑)
- 全12室という究極のプライベート空間
- 露天風呂付きの「離れ」で過ごす、完全な非日常
- 手入れの行き届いた芝生の庭がもたらす、心の平穏
- 地産地消にこだわった、物語性のある創作会席料理
- 記念日など、特別な時間を祝うのにふさわしい静謐な環境
石和温泉の賑わいから少しだけ離れた、静かな一角に「和穣苑」は佇んでいます。ここは、わずか12組のゲストだけが許された、大人のための隠れ家。広い庭を囲むように点在する客室は、その多くが「離れ」形式。他のゲストの気配を感じることなく、ただひたすらにふたりの時間に没頭できる。そんな、贅沢な孤独がここにあります。
客室
この宿の真髄は、露天風呂を備えた5棟の「離れ」と5室の「露天風呂付き客室」にあります。それぞれが異なる趣を持ち、訪れるたびに新しい発見があるでしょう。木の温もりを大切にした室内は、華美な装飾を排し、心地よい静けさに満ちています。縁側から庭を眺めれば、日常のあれこれが、すっと遠のいていくようです。
客室露天風呂の時間
客室の扉を開け、専用の露天風呂を目にした瞬間、安堵のため息が漏れるはずです。そこにあるのは、誰の目も気にすることのない、ふたりだけの湯殿。ある部屋は檜の香りに満ち、またある部屋は岩風呂の野趣あふれる風情。
夜、満点の星空の下で湯に浸かれば、まるで宇宙と一体になったかのような感覚に包まれます。昼間は、庭の緑を眺めながら、鳥の声に耳を澄ませる。ここでは、時間を気にする必要はありません。好きな時に、好きなだけ。温泉という地球の恵みを、心ゆくまで享受できるのです。
共用風呂
プライベート感を重視した宿ですが、こぢんまりとしながらも風情のある大浴場も用意されています。客室の露天風呂とはまた違う、少しだけ開かれた空間で手足を伸ばすのも良いものです。
特に、時間帯で男女が入れ替わる露天風呂は、庭の木々を眺めながらの湯浴みが楽しめます。静かな空間で、他のゲストと軽く会釈を交わす。そんなささやかな交流も、旅の記憶に彩りを添えるかもしれません。
食事
和穣苑の食事は、単なる料理ではなく、一編の物語です。料理長自らが足を運び、選び抜いた山梨の旬の食材。それらが、驚きと感動に満ちた一皿へと昇華されます。
お品書きには、食材の産地や生産者の想いが綴られており、それを読みながらいただく料理は味わいもひとしお。甲州ワインビーフ、新鮮な高原野菜、清流で育った川魚。山梨のテロワール(風土)を丸ごと味わうような美食体験が、ふたりの食卓を豊かに満たしてくれます。
サービス
夕食の席。
最後の一皿が運ばれてきたとき、それは小さなデザートの盛り合わせだった。
プレートの隅には、チョコレートで小さな文字が書かれている。
「結婚三十周年、おめでとうございます」
「……あなたが、伝えてくれたの?」
妻が驚いて夫を見る。
夫は少し照れくさそうに首を横に振った。
チェックインの時に、何気なく口にした記念日の話を、宿の方が覚えていてくれたのだ。
ささやかだけれど、心からのサプライズ。
その温かい心遣いが、何よりの贈り物だった。
こんな50代夫婦におすすめ
- とにかく静かに、誰にも邪魔されずに過ごしたい夫婦
- 結婚記念日や誕生日など、特別な一日を祝いたい夫婦
- 食材の背景や物語を大切にする、食通の夫婦
アクセス情報
- 住所: 山梨県笛吹市石和町八田137
- アクセス: JR中央本線「石和温泉駅」より車で約7分
- 送迎: 石和温泉駅より送迎あり(要事前連絡)
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
「離れ」の縁側で、夫が珍しく文庫本を読んでいる。
妻は、備え付けのコーヒーミルで豆を挽いていた。
カリカリという音と、香ばしい匂いが静かな部屋に満ちる。
「君が淹れてくれるコーヒー、久しぶりだな」
会社をリタイアしてから、時間に追われるように毎日を過ごしていた夫。
ここでは、時計の針がゆっくり進んでいるようだ。
「あら、家でも淹れてあげてるじゃない」
「いや…味が違うんだ。ここの空気のせいかな」
そうかもしれない、と妻は思う。
何にも急かされず、誰の目も気にせず、ただ目の前のことに心を注ぐ。
旅とは、そんな当たり前の豊かさを思い出させてくれるもの。
ゆっくりとドリップしたコーヒーを、ふたつのカップに注ぐ。
この香りを、きっと私たちは忘れない。
シャトレーゼホテル 旅館 富士野屋
~あの”シャトレーゼ”が贈る、甘美な湯浴みとワインの協演~
■おすすめポイント(シャトレーゼホテル 旅館 富士野屋)
- 有名菓子店「シャトレーゼ」グループならではの、スイーツのおもてなし
- ウェルカムスイーツや湯上がりのアイスなど、心躍るサービス
- 自家源泉かけ流しの豊富な湯船と、客室の露天風呂
- プレミアムブランド「YATSUDOKI」のカフェを併設
- 山梨の食材とワインを知り尽くした、美食の提案
「シャトレーゼ」の名を聞いて、心ときめかない人がいるでしょうか。あのお菓子ブランドが手掛ける宿が、ここ「富士野屋」です。伝統的な温泉旅館の心地よさはそのままに、随所にシャトレーゼならではの”甘い魔法”がかけられています。スイーツやワインを愛する夫婦にとって、ここはまさに地上の楽園。童心に帰って、旅の喜びを分かち合える場所です。
客室
客室は、落ち着いた和の空間。窓からは、石和ののどかな風景が望めます。露天風呂付き客室を選べば、プライベートな空間で自家源泉かけ流しの湯を心ゆくまで満喫できます。部屋に置かれたシャトレーゼのお菓子をつまみながら、湯船に浸かる。そんな、この宿ならではの幸せな時間が待っています。
客室露天風呂の時間
陶器でできた円形の湯船は、ふたりで入るのにちょうどいい大きさ。滔々と注がれる自家源泉は、肌に優しくまとわりつくような、柔らかな感触です。湯船の脇には小さなテーブルを置けるスペースがあり、宿のワイナリーで作られたスパークリングワインで乾杯、なんていう過ごし方も叶います。
湯浴みの合間には、冷蔵庫に用意されたシャトレーゼのアイスクリームを。火照った体に、ひんやりとした甘さが染み渡ります。温泉の癒しと、スイーツの幸福感。その両方を一度に味わえる、なんとも贅沢な湯浴みです。
共用風呂
この宿の魅力は、多彩な湯巡りができること。趣の異なる大浴場や露天風呂、そして有料の貸切天空風呂など、館内にいながらにして様々な温泉体験ができます。
特に屋上にある貸切天空風呂からの眺めは格別。昼は甲府盆地のパノラマを、夜は満点の星空を独り占めできます。夫婦水入らずで、開放感あふれる湯浴みを楽しんでみてはいかがでしょうか。湯上がりには、もちろんシャトレーゼのアイスキャンディーが待っています。
食事
夕食は、山梨の旬を大切にした会席料理。シャトレーゼグループが持つネットワークを活かし、契約農家から届く新鮮な野菜や、品質にこだわった甲州牛などが並びます。料理に合わせて提案されるのは、もちろん自社のワイナリーで醸造されたワイン。
そして、食事の締めくくりに登場するデザートは、まさに真骨頂。パティシエが腕を振るう、専門店のクオリティです。最後の最後まで、ゲストを喜ばせたいという、シャトレーゼのおもてなし精神が光ります。
サービス
チェックインを済ませ、ラウンジで一息つく。
運ばれてきたのは、ウェルカムスイーツの美しいケーキ。
「わあ、綺麗…」
思わず声を上げる妻に、夫も目を細める。
「シャトレーゼの、YATSUDOKIっていうブランドのものらしいですよ」
スタッフがにこやかに説明してくれた。
「食べるのがもったいないな」
「本当に。でも、いただきましょうか」
フォークを入れると、上質なクリームの香りがふわりと広がる。
旅の始まりを祝う、甘い、甘い口づけ。
こんな素敵なスタート、初めてかもしれない。
こんな50代夫婦におすすめ
- スイーツやワインが大好きで、食の楽しみを重視する夫婦
- 伝統的な旅館の良さと、モダンで楽しいサービスの両方を求める夫婦
- 童心に帰って、わくわくするような滞在を楽しみたい夫婦
アクセス情報
- 住所: 山梨県笛吹市石和町八田286
- アクセス: JR中央本線「石和温泉駅」より車で約5分
- 送迎: 石和温泉駅より送迎あり
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
湯上がりに、二人でラウンジのアイスを食べていた。
夫はあずきバー、妻はチョコのアイス。
まるで学生時代に戻ったみたいで、なんだか可笑しい。
「昔、帰り道によくアイス食べたよな」
夫がぽつりと言う。
「そうだったかしら」
「忘れたのか? 公園のベンチで、いつも半分こにして」
そんなこともあったかもしれない。
必死で働き、子育てに追われるうちに、遠い記憶の彼方に置き忘れていた風景。
この宿のあちこちにある、ささやかな「甘いもの」が、忘れていた記憶の扉を次々と開けてくれる。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「帰りも、公園に寄ってアイス、食べていかない?」
夫は一瞬きょとんとして、それから、くしゃっと笑った。
その笑顔は、昔と少しも変わっていなかった。
糸柳こやど ゆわ
~全館畳敷きの温もりと、薬石が生む癒しの時間~
■おすすめポイント(糸柳こやど ゆわ)
- 素足に心地よい、全館畳敷きの温かな空間
- わずか19室の小さな宿ならではの、きめ細やかなおもてなし
- 15種類の薬石で体を芯から温める「嵐の湯」
- 自家源泉を心ゆくまで楽しめる露天風呂付き客室
- 地元の旬を大切にした、月替わりの創作和食
「ただいま」と、思わず口にしてしまいそうな宿。それが「糸柳こやど ゆわ」です。館内に一歩足を踏み入れると、そこはすべて畳敷き。スリッパを脱ぎ、素足で歩く心地よさが、旅の緊張を解きほぐしてくれます。わずか19室という小さな宿だからこそできる、一人ひとりのゲストに寄り添うような温かいもてなし。まるで我が家のように、心からくつろげる時間がここにあります。
客室
露天風呂付きの客室は、和の落ち着きと現代的な快適性を兼ね備えた、居心地の良い空間です。広すぎず、狭すぎず、ふたりで過ごすのにちょうど良いサイズ感。窓辺に座り、庭の緑を眺めているだけで、心が静かに満たされていきます。畳のい草の香りに包まれながら、何をするでもなく過ごす時間こそ、最高の贅沢かもしれません。
客室露天風呂の時間
客室の露天風呂は、信楽焼の浴槽。自家源泉の温泉が、絶えずなみなみと注がれています。石和の湯は、刺激の少ないやわらかなアルカリ性単純泉。いつまでも浸かっていたくなるような、優しい肌触りが特徴です。
この宿の畳敷きの心地よさは、湯上がりにも続きます。火照った素足で畳の上を歩く気持ちよさは、格別。バスローブを羽織って、縁側で夕涼み。聞こえるのは虫の音と、風にそよぐ木の葉の音だけ。日常のデジタルな喧騒から離れ、五感が研ぎ澄まされていくのを感じられます。
共用風呂
この宿の大きな特徴が、薬石浴「嵐の湯」。温めた15種類の薬石の上に横たわると、大量の汗とともに、体内の老廃物が排出されていくのがわかります。体の芯からじんわりと温まり、血行が促進されることで、深いリラックス効果が得られます。
温泉と薬石浴。このふたつの相乗効果で、心身ともにリフレッシュできるのが「ゆわ」ならではの魅力。ご夫婦で一緒に体験すれば、旅を終える頃には、心も体も驚くほど軽くなっていることでしょう。もちろん、男女別の大浴場も完備しています。
食事
食事は、旬を大切にした月替わりの創作和膳。料理長が毎朝市場で仕入れる新鮮な魚介や、地元農家から届く採れたての野菜など、その時期に一番美味しいものを、一番美味しい調理法で提供してくれます。
器の一つひとつにもこだわりが感じられ、目でも舌でも楽しめる内容です。プライベートな空間でいただける個室食事処もあり、夫婦水入らずでゆっくりと食事の時間を満喫できます。
サービス
薬石浴「嵐の湯」を終え、休憩処で冷たいお茶を飲んでいた。
汗をかいた後の体は、驚くほどすっきりしている。
「すごいな、これ。体が軽い」
夫が感心したように言う。
「本当ね。なんだか悪いものが全部出ていったみたい」
妻が答えると、宿のスタッフがにこやかに話しかけてきた。
「皆様、そうおっしゃいます。今夜はきっと、ぐっすりお休みになれますよ」
その言葉通り、その夜は本当に深い眠りに落ちた。
特別な会話があったわけではない。
でも、そのさりげない一言が、夫婦の体を労わる温かい魔法のように感じられた。
こんな50代夫婦におすすめ
- まるで自宅にいるような、気兼ねないくつろぎを求める夫婦
- 温泉だけでなく、デトックスや健康にも関心が高い夫婦
- 大きなホテルが苦手で、こぢんまりとした宿を好む夫婦
アクセス情報
- 住所: 山梨県笛吹市石和町川中島410
- アクセス: JR中央本線「石和温泉駅」より車で約7分、徒歩約20分
- 送迎: なし
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
夜、部屋の電気を消すと、窓の外から優しい月明かりが差し込んできた。
隣で、夫の静かな寝息が聞こえる。
結婚して三十年、こうして隣で眠るのが当たり前の毎日だった。
でも、旅先で迎える夜は、少しだけ違う。
畳の香り、温泉の匂い、聞こえてくる虫の声。
五感が澄み渡り、すぐ隣にある愛おしい存在を、改めて感じさせてくれる。
今日は、夫がたくさん話をしてくれた。
定年後のこと、昔の友人のこと、子供の頃の夢のこと。
家では、なかなか聞けない話だった。
この宿の畳の温もりが、彼の心を解きほぐしてくれたのかもしれない。
ありがとう、と小さな声で呟く。
隣の寝息が、ふっと深くなった。
笛吹川温泉 別邸 坐忘
~日常を忘れるための、究極の美空間~
■おすすめポイント(笛吹川温泉 別邸 坐忘)
- 洗練されたデザインと、日本の伝統美が融合した建築
- 甲州の自然と一体になれる、開放感あふれる露天風呂付き客室
- 敷地内に佇む離れの茶室や、ワイン蔵を改装したバーなど多彩な施設
- 地元の食材をアーティスティックな一皿に昇華させた創作料理
- 「坐して忘れる」という名にふさわしい、静謐で上質な時間
石和温泉郷から少し足を延ばした、笛吹川のほとり。そこに、日常のすべてを「坐して忘れる」ための宿、「坐忘」はあります。ここは、ただ泊まる場所ではありません。建築、食、温泉、サービス、そのすべてが、ゲストを非日常の境地へと誘うために計算され尽くした、ひとつの作品です。本物を知る大人が、最後に辿り着く場所。人生の節目を迎えた夫婦が、新たなステージへと向かうための、静かな儀式の場とも言えるでしょう。
客室
本館から渡り廊下で続く「離れ」の客室は、それぞれが独立したヴィラタイプ。プライバシーが完全に守られた空間で、誰にも邪魔されることなく過ごせます。室内は、モダンでありながら木の温もりを感じさせる、洗練の極み。大きな窓からは、甲州の雄大な自然が飛び込んできます。テラスのソファに身を沈めれば、時間の概念さえも忘れてしまいそうです。
客室露天風呂の時間
客室の露天風呂は、まるで自然の中に溶け込むように設計されています。湯船に身を浸すと、視界に広がるのは、どこまでも続く空と、遠くに連なる山々の稜線だけ。遮るものは、何もありません。
川のせせらぎや鳥のさえずりをBGMに、源泉かけ流しの湯に体を委ねる。それは、心と体がゆっくりと自然に還っていくような、瞑想にも似た時間です。朝日を浴びながらの朝風呂、星空を見上げての夜風呂。刻一刻と表情を変える景色とともに、湯浴みの記憶は深く心に刻まれることでしょう。
共用風呂
坐忘には、野趣あふれる岩造りの大浴場「さゝの湯」と、檜の香りが心地よい「 қараの湯」があります。どちらも、大きな窓から光が差し込む、開放的で清潔感に満ちた空間。
客室の露天風呂でプライベートな時間を満喫した後に、広い湯船で思いきり手足を伸ばすのもまた一興です。湯上がりには、ラウンジで冷たいドリンクを。細部にまで行き届いた美意識が、ゲストの心を豊かに満たしてくれます。
食事
食事は、宿の哲学を最も色濃く反映する時間です。提供されるのは、地元山梨の食材のポテンシャルを最大限に引き出した、イノベーティブな日本料理。料理長の手によって、見慣れた食材が、まるでアートのように美しく、そして驚きに満ちた一皿へと生まれ変わります。
食事処は、プライベートが保たれた半個室。ワインセラーから選んだ一本とともに、料理と空間が織りなす世界観に酔いしれる。それは、五感で味わう、忘れられない食体験となるはずです。
サービス
ワイン蔵を改装したバーで、食後の一杯を飲んでいた。
重厚な木の扉、仄暗い照明。壁には無数のワインボトルが眠っている。
「すごい場所だな」
夫が感嘆の声を漏らす。
バーテンダーが、そっとカクテルを差し出した。
「奥様には、桃と地元の白ワインを使ったカクテルを。旦那様には、少しスモーキーなウイスキーを」
何も言っていないのに、まるで心を見透かされたようなセレクト。
「どうして、これが好きだと?」
妻が尋ねると、バーテンダーは静かに微笑んだ。
「お客様の雰囲気から、インスピレーションをいただきました」
言葉にならない想いを汲み取る。
それこそが、この宿が提供する究極のサービスだった。
こんな50代夫婦におすすめ
- 建築やデザイン、アートに関心が高く、審美眼を持つ夫婦
- 日常から完全に解き放たれ、自分と向き合う時間を持ちたい夫婦
- 最高級の空間とサービスの中で、人生の節目を祝いたい夫婦
アクセス情報
- 住所: 山梨県甲州市塩山小屋敷2280-1
- アクセス: JR中央本線「塩山駅」より車で約10分
- 送迎: 塩山駅より送迎あり(要事前連絡)
ふたりで紡ぐ、宿の記憶
朝、テラスの椅子に座って、二人で遠くの山を眺めていた。
夫はコーヒーを、妻はハーブティーを手にしている。
会話は、ない。
でも、気まずさは少しもなかった。
沈黙が、こんなにも心地よいものだと、いつ以来だろう。
必死に言葉を探さなくても、隣にいるだけで、お互いの考えていることがわかるような気がした。
私たちは、大丈夫。
これからも、きっと。
言葉ではなく、この雄大な景色が、そう語りかけてくれているようだった。
やがて、夫がぽつりと言った。
「忘れるために来たはずが、忘れられない場所になったな」
妻は、静かに微笑んで頷いた。
ここは、また新しい物語を始めるための場所。
坐忘の朝の光が、ふたりの未来を優しく照らしている。
まとめ|さあ、ふたりの時間を紡ぐ旅へ
今回は、50代の夫婦が心から満たされる、石和温泉エリアの露天風呂付き客室がある宿を5軒、厳選してご紹介しました。
- 銘石の宿 かげつ(六千坪の日本庭園が圧巻)
- 糸柳別館 離れの邸 和穣苑(全12室のプライベートな離れの隠れ家)
- シャトレーゼホテル 旅館 富士野屋(スイーツとワインで心躍る滞在)
- 糸柳こやど ゆわ(全館畳敷きと薬石浴で心身を癒す)
- 笛吹川温泉 別邸 坐忘(日常を忘れるための究極の美空間)
どの宿も、ただ泊まるだけではない、夫婦の絆を深く、温かく紡ぎ直すための「時間」と「空間」を用意してくれています。
子育てを終え、仕事も一段落。これからの長い人生、隣にいるパートナーと、どんな景色を見て、どんな話をしたいですか。
その答えを探す旅は、もう始まっています。
まずは、カレンダーにふたりだけの印をつけてみませんか。その小さな一歩が、これからの人生を、より豊かで、輝かしいものにしてくれるはずです。