伊東温泉、ふたり時間。50代夫婦が選ぶべき「露天風呂付き客室」のある宿5選

目次

なぜ、人生の節目に立つ夫婦は伊東温泉へ向かうのか

都心から電車を乗り継げば、わずか2時間弱。車窓の風景が都会のビル群から、雄大な相模湾の青へと変わる頃、心はすでに旅の始まりを告げている。そこは、日本屈指の湯量を誇る温泉郷、伊東。

子育てという大きな役目を終え、ようやく手にした、ふたりだけの時間。しかし、いざ向き合うと、どんな風に過ごせばいいのか少し戸惑ってしまう。そんな50代の夫婦が、まるで吸い寄せられるようにこの地を訪れるのには、理由があります。

伊東の魅力は、ただ豊富な温泉だけではありません。沖合で獲れる新鮮な海の幸、温暖な気候が育む滋味深い山の恵み。そして、どこか懐かしい温泉街の風情と、洗練されたモダンな宿が共存する独特の空気感。それは、これまでの人生を慈しみ、これからの人生に思いを馳せる夫婦にとって、これ以上ないほど心地よい舞台装置なのです。

ここは、非日常の絶景を追い求める場所というより、上質な日常の延長線上にある安らぎの地。この記事では、「ただ宿泊するだけではない、夫婦ふたりの時間を深く紡ぎ直す」というコンセプトのもと、伊東温泉の中から特に露天風呂付き客室が素晴らしい、珠玉の宿を5軒だけ厳選してご紹介します。

ABBA RESORTS IZU – 坐漁荘

~伊豆の森に抱かれる、究極のプライベートリゾート~

■おすすめポイント(ABBA RESORTS IZU – 坐漁荘)

  • 浮山温泉の広大な敷地に佇む、圧倒的なプライベート感
  • 日本の伝統建築とモダンデザインが融合した洗練された空間
  • 全室に備えられた、源泉かけ流しの露天風呂または内風呂
  • 伊豆の山海の幸を堪能できる、本格フレンチと伝統的な日本料理
  • 心身を解き放つ、自然に囲まれた「やまももスパ」

伊豆高原の豊かな自然が息づく約一万坪の敷地。その森閑とした中に、「ABBA RESORTS IZU – 坐漁荘」は静かに佇んでいます。一歩足を踏み入れた瞬間から、外界の喧騒は遠ざかり、鳥の声と木々の囁きだけがふたりを迎えてくれます。ここは、宿というよりも、自然と調和した一つの作品。何もしないことの贅沢さを、心ゆくまで味わうための場所です。

客室

客室は、伝統的な数寄屋造りの本館、そしてプライベート感を極めたヴィラタイプに分かれています。どの部屋も、日本の建築美とモダンな快適性が見事に融合。大きな窓から望むのは、手入れの行き届いた庭園や、ありのままの自然林。室内にいながらにして、森羅万象の気配を感じることができます。

客室露天風呂の時間

ヴィラのテラスに設えられた露天風呂の湯船に、そっと身体を沈める。聞こえるのは、湯が静かに溢れる音と、風が木々の葉を揺らす音だけ。肌を包むのは、正真正銘の源泉かけ流しの湯。少しぬるりとした柔らかな感触が、旅の疲れだけでなく、日常の中で知らず知らずのうちに溜め込んだ心の強張りさえも、ゆっくりと溶かしていくようです。

見上げれば、木々の隙間から星が瞬き、月明かりが湯面に揺れています。隣にいるパートナーとの間に、多くの言葉は必要ありません。ただ同じ空を見上げ、同じ湯に浸かり、同じ静寂を共有する。その満ち足りた時間が、ふたりの関係をより深く、確かなものにしてくれるのです。

共用風呂

坐漁荘の素晴らしさは、客室だけに留まりません。温泉棟「森の湯」へ続く小径を歩む時間もまた、心を穏やかにしてくれます。内湯と露天風呂を備えた大浴場は、広々とした空間が魅力。特に、野趣あふれる岩造りの露天風呂は、まるで森の中の泉で湯浴みをしているかのような錯覚に陥るほど。

客室のプライベートな湯浴みとはまた違う、開放感に満ちた時間。夫婦それぞれが、ひとりの時間を愉しんだ後、湯上がりのラウンジで待ち合わせる。そんな過ごし方も、この宿ならではの贅沢と言えるでしょう。

食事

夕食は、その日の気分でフレンチレストラン「やまもも」か、日本料理「さくら」を選ぶことができます。どちらも、相模湾や駿河湾で揚がった魚介、伊豆の契約農家から届く新鮮な野菜など、地元の旬の食材を惜しみなく使用。

特に「やまもも」で供されるのは、素材の味を最大限に引き出した、繊細かつ創造的なフランス料理。一皿一皿が、まるでアートのように美しく、口に運ぶたびに新たな発見があります。ソムリエが選ぶワインとのマリアージュもまた、食事の時間を忘れられない思い出へと昇華させてくれるでしょう。

サービス

レストランからの帰り道、ふと夫が足を止める。
「さっきのスタッフさん、私が少し寒そうにしていたら、すぐにブランケットを持ってきてくれたんだ」
「あなたも? 私が食後のハーブティーを頼もうか迷っていたら、先に『カモミールはいかがですか』って」
言葉には出さない、些細な心の動き。
それを汲み取り、さりげなく差し伸べられる温かい手。
この宿のおもてなしは、マニュアルではなく、心で動いている。

こんな50代夫婦におすすめ

  • 誰にも邪魔されず、ふたりだけの時間を静かに過ごしたい夫婦
  • 自然の中で過ごすことで、心身ともにリフレッシュしたい夫婦
  • 美食と上質な空間、そして洗練されたホスピタリティを求める夫婦

アクセス情報

  • 住所: 静岡県伊東市八幡野1741
  • アクセス: 伊豆急行線「伊豆高原駅」よりタクシーで約5分
  • 送迎: 伊豆高原駅より無料送迎あり(要予約)

ふたりで紡ぐ、宿の記憶

朝。
鳥たちのさえずりが、優しい目覚まし代わり。
ヴィラのテラスに用意された朝食は、陽光を浴びてきらきらと輝いている。
焼きたてのパンの香ばしい匂い。
「ここで食べる朝食は、世界一美味しいかもしれないな」
夫が、まるで少年のように笑う。
結婚して三十年、彼がこんなにも無邪気な顔をするのを、久しぶりに見た気がした。
食後、広い敷地をゆっくりと散策する。
木漏れ日が揺れる小径、苔むした岩、名も知らぬ小さな花。
特別な何かがあるわけではない。
ただ、隣に彼がいて、同じ景色を見ている。
手をつなぐ。
少しだけごつごつした、けれど温かい、いつもの彼の手のひら。
「帰りたくないな」
どちらからともなく、同じ言葉がこぼれた。
この森で過ごした時間は、きっとこれからの日々を照らす、小さな灯りになる。

伊東 緑涌

~全室離れで嗜む、源泉かけ流しの贅沢~

■おすすめポイント(伊東 緑涌)

  • 全室が露天風呂付きの離れという、究極のプライベート空間
  • 伊東でも希少な自家源泉を、全客室でかけ流しにて堪能
  • 伊豆の旬の恵みを、部屋でゆっくりと味わう本格懐石料理
  • 和の情緒あふれる、静寂に包まれた上質な時間
  • 付かず離れずの距離感が心地よい、洗練されたおもてなし

伊東の市街地から少しだけ奥まった、閑静な高台。そこに「伊東 緑涌」は、まるで隠れ家のように佇んでいます。わずか8棟のみの客室は、すべてが露天風呂を備えた独立した離れ。他の宿泊客の気配を気にすることなく、ただひたすらに、ふたりだけの時間に浸ることができる。ここは、静寂という名の贅沢を知る大人のための宿です。

客室

数寄屋造りの離れは、それぞれに趣の異なる設え。一歩足を踏み入れれば、い草の清々しい香りに包まれ、心がすっと静まっていくのがわかります。広々とした和室、そして庭に面した濡れ縁。華美な装飾はありませんが、柱の一本、障子の一枚に至るまで、職人の技と美意識が宿っています。

客室露天風呂の時間

緑涌の最大の魅力は、なんといっても全室に備えられた源泉かけ流しの露天風呂。宿が所有する自家源泉から引かれた湯は、空気に触れることなく湯船へと注がれます。だからこそ、その鮮度は格別。絶え間なく湯船から溢れ出る湯の音は、何よりのBGMです。

夜、庭の木々が静かにライトアップされる中、湯船に身体を預ける。見上げれば満天の星。隣で夫が、小さく息をつくのが聞こえる。「ああ、極楽だな」と。特別な会話はないけれど、湯の温もりと静寂が、ふたりの心をじんわりと結びつけてくれる。好きな時に、好きなだけ、誰にも気兼ねなく名湯を独り占めできる。これ以上の贅沢があるでしょうか。

共用風呂

こちらの宿には、大浴場などの共用風呂は用意されていません。

それは、全客室に備えられた専用の露天風呂で、誰にも気兼ねすることなく、ふたりの時間を心ゆくまで楽しんでほしいという、宿の哲学の表れです。チェックインからチェックアウトまで、完全なプライベート空間が約束されている。これこそが、「緑涌」が提供する最も価値あるおもてなしなのです。

食事

夕食は、部屋でゆっくりといただきます。仲居さんが一品一品、絶妙な間合いで運んでくれるのは、伊豆の山海の幸をふんだんに盛り込んだ本格懐石。金目鯛の煮付け、伊勢海老のお造り、朝採れの野菜。どれもが素材の持ち味を最大限に引き出した、実直で心に響く味わいです。

料理長の「作りたてを一番美味しい状態で召し上がっていただきたい」という想いが、ひしひしと伝わってきます。周りを気にすることなく、食事と会話に集中できる時間。地酒を片手に、今日一日の出来事を語り合い、ゆっくりと夜が更けていきます。

サービス

夕食後、濡れ縁で涼んでいると、すっと夜食が届けられる。
「もし、小腹が空かれましたら」
小さな声でそう言い残し、仲居さんは静かに下がっていった。
お櫃の中には、可愛らしいサイズのおにぎり。
「気が利くなあ」
夫が感心したように呟く。
決して前に出過ぎず、しかし客が何を求めているかを常に察している。
その絶妙な距離感が、この宿の心地よさの秘密なのだろう。

こんな50代夫婦におすすめ

  • 滞在中は誰にも会わず、完全にプライベートな時間を過ごしたい夫婦
  • 鮮度の高い本物の源泉かけ流しを、心ゆくまで満喫したい夫婦
  • 部屋食で、伊豆の旬の味覚をゆっくりと味わいたい夫婦

アクセス情報

  • 住所: 静岡県伊東市広野2-2-5
  • アクセス: JR「伊東駅」よりタクシーで約7分
  • 送迎: なし

ふたりで紡ぐ、宿の記憶

湯上がりの火照った身体に、夜風が心地よい。
濡れ縁に並んで腰掛け、夫が缶ビールを「ぷしゅっ」と開ける。
「昔さ、子どもたちが小さい頃、みんなで来たよな、伊東に」
「ええ、覚えてるわ。海水浴場で、あなたが日焼けで真っ赤になって」
「そうそう。あの頃は、こんな静かな宿に泊まるなんて、想像もつかなかったな」
妻は何も言わず、ただ夜空に浮かぶ月を見つめている。
たくさんの思い出と、少しの寂しさと、そして、これから始まる新しい時間への期待。
それらすべてが溶け合ったような、穏やかな沈黙がふたりを包む。
虫の音が、りん、りんと響く。
「なあ」
夫がぽつりと言う。
「また来ような、ここに。今度は、桜の季節にでも」
妻は、そっと夫の肩に頭をもたせ、小さく頷いた。
言葉にしなくても、伝わる想いがここにはある。

星野リゾート 界 アンジン

~青い海とアートに酔いしれる、大人のための休日~

■おすすめポイント(星野リゾート 界 アンジン)

  • 全室から相模湾を望む、絶景のオーシャンビュー
  • 英国人航海士・三浦按針(ウィリアム・アダムス)をテーマにした、ユニークでアートな空間
  • 海と空に溶け込むような感覚を味わえる、最上階の絶景露天風呂
  • 船の甲板をイメージした「サンブエナデッキ」で過ごす、開放的な時間
  • 伊豆の海の幸を堪能できる、目にも美しい会席料理

伊東の海の玄関口、伊東港の目の前に立つ「星野リゾート 界 アンジン」。その名は、徳川家康の外交顧問として活躍した英国人航海士、三浦按針に由来します。館内の至る所に、航海や造船、海の物語をモチーフにしたアートが散りばめられ、まるでアートギャラリーに滞在しているかのよう。ここは、知的好奇心を刺激し、日常から解き放たれるための、新しい温泉旅を提案してくれる宿です。

客室

全室がオーシャンビュー。大きな窓の向こうには、青く広大な相模湾が広がります。客室のデザインは、船旅をテーマにしたモダンで機能的なもの。壁には船の設計図や古地図が飾られ、大航海時代へのロマンを掻き立てます。波の音をBGMに、窓辺のソファに座ってただ海を眺めるだけで、心が洗われていくようです。

客室露天風呂の時間

この宿には、全室に客室露天風呂があるわけではありませんが、露天風呂付きの客室タイプを選ぶことができます。その湯船は、まるで船のデッキにいるかのようなデザイン。目の前に遮るものは何もなく、広大な海と空が一体となったパノラマが広がります。

朝、水平線から昇る太陽の光を浴びながら湯に浸かる。夜、漁火や街の灯りがきらめく夜景を眺めながら、静かな時間を過ごす。潮風を感じながら入る温泉は、まさに非日常の極み。ふたりで眺めるその景色は、きっと忘れられない一枚の絵となって心に刻まれることでしょう。

共用風呂

宿の最上階にある大浴場は、まさに天空のスパ。ガラス張りの内湯からも、開放感あふれる露天風呂からも、伊東の海と街並みを一望できます。特に、岩造りの露天風呂「濤(とう)の湯」は、海にせり出すように作られており、まるで空に浮かんでいるかのような浮遊感を味わえます。

湯上がりには、同じフロアにある「湯上がり処」で、伊東名産のぐり茶や冷たいドリンクを。海風を感じながら火照った身体をクールダウンさせる時間は、至福のひとときです。

食事

お食事処でいただくのは、伊豆の豊かな海の幸を存分に味わえる会席料理。先付けからデザートまで、三浦按針の航海の物語や、海にまつわるテーマが込められており、舌だけでなく目や心でも楽しむことができます。

名物は、やはり金目鯛。宿オリジナルのハーブや香辛料を使った「金目鯛の椿蒸し」は、ふっくらとした身と豊かな香りが絶品です。一皿ごとに驚きと発見があり、夫婦の会話も自然と弾みます。

サービス

最上階のサンブエナデッキに出ると、心地よい潮風が頬を撫でる。
眼下には、きらきらと光る海。
「船の甲板みたいだな」
夫が手すりに寄りかかりながら言う。
デッキでは、時間限定でビールやハーブティーが振る舞われている。
「一杯、いただくか」
ふたりで冷たいビールを片手に、遠くを行き交う船を眺める。
特別な会話はない。
ただ、同じ方向を見つめ、同じ風を感じている。
それだけで、心が満たされていくのがわかる。

こんな50代夫婦におすすめ

  • ありきたりな温泉旅館ではなく、ユニークで知的な滞在をしたい夫婦
  • 部屋や温泉から、とにかく美しい海の景色を眺めたい夫婦
  • アートやデザイン、歴史物語に興味がある夫婦

アクセス情報

  • 住所: 静岡県伊東市渚町5-12
  • アクセス: JR「伊東駅」より徒歩約15分、タクシーで約5分
  • 送迎: なし

ふたりで紡ぐ、宿の記憶

チェックインの時にもらった、一枚の古い海図のような紙。
それは「按針の航跡」と名付けられた、館内アートを巡るスタンプラリーの台紙だった。
「子どもじゃあるまいし」
そう言いながらも、夫は少し楽しそうだ。
ロビーの舵、廊下の古地図、客室のオブジェ。
ひとつひとつ、スタンプを押しながら見て回る。
それはまるで、按針が辿った大航海時代の冒険を追体験するような時間。
「へえ、日本で初めて洋式の帆船を造ったのは、ここ伊東だったのか」
夫が、壁のアートを指差して言う。
知らなかった歴史、知らなかった物語。
旅は、新しい景色を見せてくれるだけじゃない。
世界の広さや、歴史の面白さを、改めて教えてくれる。
すべてのスタンプを集めた時、ふたりは顔を見合わせて笑った。
まるで、宝物を見つけた子どものように。
この宿は、忘れていた冒険心を思い出させてくれる場所なのかもしれない。

淘心庵 米屋

~竹林の囁きに耳を澄ます、文学の薫る隠れ家~

■おすすめポイント(淘心庵 米屋)

  • 三千坪もの敷地に広がる、幻想的な竹林の庭園
  • 毎分200リットル湧出する、豊富な自家源泉かけ流しの湯
  • 数々の文人墨客に愛されてきた、歴史と風格が漂う空間
  • 伊豆の山里の幸を中心に据えた、繊細な創作懐石
  • 静かに読書を楽しめるラウンジなど、大人のための設え

伊東松川の清流沿い、三千坪の敷地に広がる見事な竹林。その静寂の中に、「淘心庵 米屋」はひっそりと佇んでいます。かつては多くの文人墨客が逗留し、思索にふけったというこの宿は、今もなお、文学的な薫りと凛とした空気に満ちています。日常の喧騒から離れ、自分たちの内面と向き合う。そんな静かな時間を過ごしたい夫婦にこそ、訪れてほしい場所です。

客室

客室は、それぞれに意匠を凝らした和の空間。窓の外には、風にそよぐ竹林や、手入れの行き届いた日本庭園が広がります。余計なものが削ぎ落とされたシンプルな設えだからこそ、心が落ち着き、穏やかな気持ちになれる。部屋に置かれた上質なソファに身を沈め、ただ窓の外を眺めているだけで、時間が経つのを忘れてしまいます。

客室露天風呂の時間

全室に備えられた露天風呂は、まさにこの宿の真骨頂。湯船の向こうには、青々とした竹林がどこまでも続いています。風が吹き抜けるたびに、「さわさわ」という葉擦れの音が聞こえ、まるで自然のオーケストラのよう。湯船に浸かると、視界には竹の緑と空の青しか入ってきません。

豊富な自家源泉から引かれた湯は、肌当たりが柔らかく、身体の芯からじんわりと温めてくれます。目を閉じ、竹林の囁きに耳を澄ませる。思考がクリアになり、心が洗われていく。ここは、ただ身体を温める場所ではなく、心を洗い清める(淘う)ための聖域なのです。

共用風呂

米屋の魅力は、客室の露天風呂だけではありません。男女別の大浴場もまた、素晴らしい空間です。松川に面した野趣あふれる岩風呂や、檜の香りが心地よい内湯など、趣の異なる湯船が楽しめます。

特に、川のせせらぎを聞きながら入る露天風呂は格別。客室の静寂とはまた違う、自然の躍動感を感じることができます。夫婦でそれぞれ湯浴みを愉しんだ後、湯上がり処で感想を語り合うのも、旅の良い思い出となるでしょう。

食事

夕食は、伊豆の山の幸、里の幸を中心に、旬の魚介を取り入れた創作懐石。料理長が自ら吟味した食材を使い、一品一品丁寧に仕上げられます。派手さはありませんが、出汁の旨味、素材の持ち味を大切にした、滋味深い料理が並びます。

料理が盛られる器にも、宿の美意識が光ります。美しい器は、料理を一層引き立て、食事の時間を豊かなものにしてくれる。温かいものは温かく、冷たいものは冷たいままに。その当たり前が、最高のおもてなしであることを教えてくれます。

サービス

ラウンジの窓際の席。
夫は、備え付けられていた北杜夫の本を静かに読んでいる。
私は、香り高いコーヒーを一口飲む。
誰も、何も話さない。
ただ、窓の外で揺れる竹の葉を眺めたり、本のページをめくる音を聞いたり。
沈黙が、少しも気まずくない。
むしろ、心地よい。
何かに追われることなく、ただそこに「在る」ことを許される時間。
こういう穏やかな時間を、私たちは求めていたのかもしれない。

こんな50代夫婦におすすめ

  • 都会の喧騒を離れ、静寂の中で思索にふける時間を持ちたい夫婦
  • 日本の伝統的な建築美や、庭園の風情を愛する夫婦
  • 派手さよりも、本質的な豊かさや上質さを求める夫婦

アクセス情報

  • 住所: 静岡県伊東市鎌田280
  • アクセス: JR「伊東駅」よりタクシーで約10分
  • 送迎: なし

ふたりで紡ぐ、宿の記憶

夕食を終え、部屋に戻る途中。
ライトアップされた夜の竹林は、昼間とは全く違う、幻想的な表情を見せていた。
無数の竹が、闇の中にすっと浮かび上がる。
まるで、異世界に迷い込んだかのようだ。
「きれいだな…」
妻が、吐息のように呟いた。
その横顔が、淡い光に照らされて、いつもより少し儚げに見える。
「昔、君は言ってたよな。いつか竹林のある静かな場所で、ゆっくり暮らしたいって」
夫の言葉に、妻は驚いて顔を上げた。
「あなた、覚えていてくれたの?」
もう何年も前に、何気なく口にしただけの言葉だったのに。
「忘れるわけないだろ」
夫は少し照れくさそうに笑いながら、そっと妻の肩を抱いた。
言葉にはしなくても、お互いのことを見て、覚えている。
その事実が、どんな宝石よりも心を温かくする。
竹林を抜ける夜風が、ふたりの間を優しく吹き抜けていった。

青山やまと

~伊東の街を見晴らす丘の上で、心尽くしの時間に癒される~

■おすすめポイント(青山やまと)

  • 伊東の市街地と相模湾を見晴らす、丘の上の絶景ロケーション
  • 展望大浴場や露天風呂、貸切風呂など、多彩な湯船で湯めぐりを楽しめる
  • 温かで細やかなおもてなしが、数々の旅行サイトで高く評価
  • 旬の素材を活かし、趣向を凝らした月替わりの会席料理
  • 本格的なエステやマッサージなど、リラクゼーション施設が充実

伊東温泉の高台に位置し、その名が示す通り、青い山と大和(やまと)の心でお客様を迎える宿、「青山やまと」。この宿の魅力は、なんといってもその眺望と、訪れる人すべてを温かく包み込むような、心尽くしのおもてなしにあります。豪華絢爛さよりも、人がもたらす心地よさ、安らぎを大切にしたい。そんな夫婦にぴったりの、信頼と実績を兼ね備えた名宿です。

客室

客室は、落ち着いた雰囲気の和室が中心。窓からは、眼下に広がる伊東の温泉街、そしてその向こうにきらめく相模湾を望むことができます。特に、露天風呂付きの客室を選べば、この絶景を独り占めしながら、プライベートな湯浴みを満喫できます。広々とした室内は、夫婦ふたりで過ごすには十分すぎるほどのゆとりがあり、心からリラックスできるでしょう。

客室露天風呂の時間

檜や信楽焼など、趣の異なる湯船が設えられた客室露天風呂。そこに身を沈めれば、まるで空に浮かんでいるかのような開放感に包まれます。昼間は青い海と空のコントラストを、夜は宝石箱のようにきらめく街の夜景を、ふたり占めする贅沢。

湯船の縁に腰掛け、夜景を眺めながら冷たいお酒を一杯。これまでの人生のこと、これからの未来のこと。普段はなかなか話せないようなことも、この景色を前にすれば、素直に言葉にできるかもしれません。心地よい湯と美しい景色が、夫婦の対話を優しく後押ししてくれます。

共用風呂

青山やまとのもう一つの自慢は、多彩な湯船が揃う大浴場です。最上階にある展望大浴場「星の湯」「月の湯」からは、昼夜を問わず息をのむようなパノラマが広がります。広々とした内湯のほか、野趣あふれる岩風呂、寝湯、ジャグジーなど、様々な湯船で湯めぐりを楽しめるのも魅力。

また、プライベートに温泉を楽しみたい夫婦には、有料の貸切風呂「すいしょう」もおすすめです。源泉かけ流しの檜風呂で、誰にも邪魔されず、心ゆくまで伊東の名湯を堪能することができます。

食事

食事は、伊豆の四季を映した月替わりの会席料理。海の幸、山の幸をバランス良く取り入れ、一品一品、丁寧に作られています。味はもちろんのこと、器選びや盛り付けの美しさにも、料理長のこだわりが感じられます。

メインの料理を数種類から選べるプランもあり、「今夜は何にしようか」とふたりで相談する時間もまた、旅の楽しみの一つ。アレルギーや苦手な食材にも細やかに対応してくれる、その心遣いが、食事の時間をより一層温かいものにしてくれます。

サービス

宿に到着すると、車寄せにはすでにスタッフが何人も待機している。
名前を告げると、にこやかな笑顔で「お待ちしておりました」と。
荷物はいつの間にか部屋に運ばれ、ラウンジでお茶をいただいている間に、チェックインは終わっていた。
その流れの、なんとスムーズなことか。
「すごいな、ここの人たちは」
夫が感心したように言う。
「ええ、本当に。みんな、自分の仕事に誇りを持っている感じがするわ」
押し付けがましくない、けれど隅々まで行き届いた心遣い。
この宿が長年愛され続けている理由が、わかった気がした。

こんな50代夫婦におすすめ

  • 美しい景色、特に夜景を眺めながら温泉を楽しみたい夫婦
  • マニュアル的ではない、温かで血の通ったおもてなしを求める夫婦
  • 多彩な湯船で、館内の湯めぐりを楽しみたい温泉好きの夫婦

アクセス情報

  • 住所: 静岡県伊東市岡203
  • アクセス: JR「伊東駅」よりタクシーで約10分
  • 送迎: 伊東駅より無料送迎バスあり(定時運行)

ふたりで紡ぐ、宿の記憶

部屋の電気を消して、窓辺の椅子に並んで座る。
眼下に広がるのは、伊東の街の灯り。
ひとつひとつの光の中に、人々の暮らしがある。
「こうして見ると、きれいだなあ」
妻がぽつりと呟いた。
「俺たちが駆け抜けてきた毎日も、あんな風に、遠くから見たら輝いて見えるのかな」
夫の言葉に、妻は静かに頷く。
必死で子どもを育て、仕事に追われ、気づけば三十年という月日が流れていた。
楽しいことばかりじゃなかった。
辛いことも、苦しいことも、たくさんあった。
でも、ふたりで乗り越えてきた。
きらめく夜景を見つめながら、これまでの道のりを思う。
それは、決して平坦ではなかったけれど、間違いなく、尊い道のりだった。
「ありがとう」
妻が、小さな声で言った。
何に対しての感謝なのか、夫にはすぐにわかった。
彼は何も言わず、そっと妻の手に自分の手を重ねる。
丘の上から見下ろす夜景は、まるでふたりの人生を祝福してくれているかのように、どこまでも優しく輝いている。

まとめ|さあ、ふたりの時間を紡ぐ旅へ

今回は、子育てを終えた50代の夫婦が、ふたりだけの時間を深く紡ぎ直すための場所として、伊東温泉の露天風呂付き客室がある宿を5軒、厳選してご紹介しました。

どの宿も、ただ温泉に入り、食事をするだけの場所ではありません。そこには、夫婦が自然と向き合い、語り合い、そしてお互いの存在を再確認するための、特別な時間が流れています。

時間は、ただ過ぎ去るのを待つものではなく、自らつくりだすもの。
次の休日は、荷物をまとめて伊東へ向かいませんか。波の音、風の囁き、そして湯の温もりが、ふたりの新しい物語の始まりを、きっと優しく見守ってくれるはずです。


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