札幌の奥座敷・定山渓温泉で探す、露天風呂付き客室。50代夫婦が紡ぐ、もう一度恋に落ちる宿5選

目次

なぜ、人生の節目に立つ夫婦は定山渓温泉へ向かうのか

札幌の都心から車でわずか1時間。そこには、都会の喧騒が嘘のような、静寂と緑に抱かれた温泉郷「定山渓」が広がっています。子育てという大きな役割を終え、ふたりだけの時間がふたたび流れ始めた50代の夫婦にとって、この地は特別な意味を持ちます。

若き日に訪れた賑やかな温泉旅行とは違う。ただ温泉に浸かり、美味しいものを食べるだけでもない。定山渓の渓谷を渡る風、木々の葉が擦れる音、そして肌を優しく包む名湯。そのすべてが、これまで共に歩んできた歳月を労い、これからの人生を語り合うための、完璧な舞台装置となるのです。

この記事では、「露天風呂付き客室」にこだわり、誰にも邪魔されることのない空間で、夫婦の時間を深く紡ぎ直すことができる、珠玉の宿を5軒だけ厳選しました。ただ宿泊するだけではない、これは、ふたりの物語に新たな1ページを刻むための旅の提案です。

定山渓第一寶亭留 翠山亭
~伝統と革新が織りなす、大人のための温泉リゾート~

■おすすめポイント(定山渓第一寶亭留 翠山亭)

  • 全室に自家源泉の温泉を備え、プライベートな湯浴みを約束
  • 趣の異なる3つの大浴場と、森に佇む離れの湯屋「森乃湯」
  • 湯上がりに2,500冊の本と出会えるユニークな「風呂屋書店」
  • 季節の美味を五感で味わう、洗練された会席料理
  • きめ細やかな心遣いが光る、老舗ならではの上質なホスピタリティ

創業60余年の歴史が育んだ伝統的なおもてなしと、現代の旅人の心を捉える革新的な試みが調和した、定山渓を代表する宿。館内に一歩足を踏み入れれば、そこは日常から解き放たれた別世界。ただ過ごすだけで心が満たされる、そんな贅沢な時間が流れています。

客室

数ある客室の中でも、50代の夫婦におすすめしたいのが、源泉かけ流しの展望風呂を備えた和洋室です。広々としたリビングスペースと落ち着きのあるベッドルームが、自宅のように寛げる空間を演出。窓の外には定山渓の雄大な自然が広がり、季節の移ろいを一枚の絵画のように楽しむことができます。

客室露天風呂の時間

大きな窓の向こうには、豊平川の渓谷美と、どこまでも続く空。檜の縁で設えられた湯船は、大人が足を伸ばしてもまだ余りあるほどの広さを誇ります。湯船に体を沈めると、ナトリウム塩化物泉の柔らかな湯が、じんわりと体を芯から温めていくのがわかります。聞こえるのは、風の音と、鳥の声だけ。

「若い頃は、時間さえあればどこかへ出かけてばかりだったな」
ふと夫が呟きます。
「今は、こうして何もしないでいる時間が、一番贅沢に感じるわ」
妻が微笑みながら応える。湯面に映る互いの顔は、幾多の年月を経て、穏やかで、優しい光を湛えています。ここは、言葉はいらない、ただふたりで湯に浸かり、同じ景色を眺めるだけで心が通い合う特別な場所です。

共用風呂

この宿の魅力は、客室風呂だけに留まりません。館内には趣の異なる3つの大浴場があり、湯めぐりを楽しむことができます。特に、一度は訪れたいのが、森の中にひっそりと佇む離れの湯屋「森乃湯」。渡り廊下を進むその道のりもまた、非日常へのプロローグ。木々に囲まれた露天風呂は、まるで自然と一体になるかのような感覚を味わえます。

さらにユニークなのが、湯上がりに立ち寄れる「風呂屋書店」。暖炉の炎が揺らめく空間に約2,500冊の本が並び、フリードリンクを片手に心ゆくまで読書に耽ることができます。思いがけない一冊との出会いが、旅の記憶をさらに豊かにしてくれるでしょう。

食事

夕食は、北海道の旬の食材をふんだんに使用した会席料理。料理長の研ぎ澄まされた感性と技が光る一皿一皿は、まるで芸術品のよう。器選びから盛り付けに至るまで、細やかな美意識が感じられます。

個室の食事処で、周りを気にすることなく、ふたりだけのペースでゆっくりと食事を愉しめるのも嬉しい心遣い。料理が運ばれるたびに交わされる会話が、旅の夜を一層温かいものにしてくれます。食材の物語に耳を傾けながら、北の大地の恵みを心ゆくまで堪能してください。

サービス

「あら、こんなところに本屋さんが」
湯上がりに館内を散策していると、妻が驚きの声をあげた。
「風呂屋書店、だって。面白いことを考えるもんだな」
夫も感心したように看板を見上げる。
中へ入ると、暖炉の周りにソファが置かれ、壁一面に本が並んでいた。
「コーヒーもあるみたいよ。少し休んでいかない?」
妻が嬉しそうに言う。
「そうだな。君が好きそうな小説もあるんじゃないか」
夫は、棚から一冊の本を手に取り、妻に手渡した。それは、彼女が若い頃に夢中になって読んでいた作家の新刊だった。宿のさりげない仕掛けが、忘れていた記憶の扉をそっと開けてくれる。

こんな50代夫婦におすすめ

  • プライベートな空間で、誰にも邪魔されず温泉を堪能したい夫婦
  • 宿の中でも知的好奇心を満たしたい、本好きな夫婦
  • 伝統的なおもてなしと、洗練されたサービスの両方を求める夫婦

アクセス情報

  • 住所:北海道札幌市南区定山渓温泉西3丁目105番地
  • アクセス:JR札幌駅よりじょうてつバスで約75分、「定山渓第一ホテル前」下車
  • 送迎:札幌市内より無料送迎バスあり(要予約)

ふたりで紡ぐ、宿の記憶

チェックアウトの朝。
風呂屋書店で手に取った本を、ロビーのソファで静かに読んでいた。
「そろそろ時間だ」
夫の声に顔を上げると、彼は少し寂しそうな顔で窓の外を眺めていた。
「帰りたくないわね、こんなにゆっくりできたのは久しぶり」
「ああ。また来よう。今度は、紅葉の季節に」
「ええ、約束よ」
言葉少なな会話。
でも、その短いやりとりの中に、次への約束と、この旅で得た充足感が満ちていた。
宿を後にする車の中で、妻は夫の肩にそっと頭を乗せた。
車窓を流れる景色が、ふたりの新しい思い出となって心に刻まれていく。
この宿で過ごした時間は、これからも続く長い道のりを照らす、温かい光となるだろう。
心地よい疲労感とともに、日常へと車は走り出す。

ぬくもりの宿 ふる川
~心安らぐ「おかえりなさい」が響く、第二の我が家~

■おすすめポイント(ぬくもりの宿 ふる川)

  • 民芸調の温かい雰囲気と、細やかな心遣いに満ちたおもてなし
  • 最上階に位置する、露天風呂付きテラスを備えた特別な客室
  • 「ゆ瞑み」と名付けられた離れの露天風呂で、心身ともにリラックス
  • 地産地消にこだわった、滋味深い和食会席
  • 足湯やラウンジなど、無料で楽しめる寛ぎのスペースが充実

「ただいま」と、思わず口にしてしまうような、温かい空気が流れる宿。館内の随所に飾られた野の花や、スタッフの心からの笑顔が、旅人の心を優しく解きほぐしてくれます。豪華さや派手さとは一線を画す、本物の「ぬくもり」がここにあります。

客室

夫婦水入らずの時間を過ごすなら、最上階に位置するメゾネットタイプの特別室「箒星」「真珠星」がおすすめです。「ふる川風別荘」をコンセプトにしたこの部屋は、らせん階段を上がった先に、定山渓の山々を一望できる専用の露天風呂付きテラスを備えています。室内に置かれたマッサージチェアも、旅の疲れを癒してくれる嬉しい設えです。

客室露天風呂の時間

客室のらせん階段をゆっくりと上ると、そこには空と山だけが広がるプライベートな空間が待っています。木製のテラスに設えられた陶器の露天風呂。湯船の縁に腰掛ければ、眼下には緑豊かな渓谷が広がり、まるで森の頂に浮かんでいるかのような錯覚に陥ります。

たっぷりと注がれた温泉に肩まで浸かると、日々の喧騒や悩み事が、すーっと遠のいていくようです。テラスには小さな椅子とテーブルも用意されており、湯上がりにバスローブを纏い、冷たい水を飲みながら星空を眺める時間は、何物にも代えがたい贅沢。静寂の中、ふたりで夜空の星を数える。そんなロマンチックなひとときが、夫婦の絆をより一層深いものにしてくれます。

共用風呂

館内の大浴場も風情豊かですが、ぜひ足を運んでほしいのが、敷地内の坂道を下った先にある離れの露天風呂「ゆ瞑み」。その名の通り、湯に浸かりながら瞑想にふけることができる、静寂に包まれた空間です。脱衣所から湯船まで続くスロープは、秘湯へと向かうような期待感を高めてくれます。

また、宿の入り口横には誰でも利用できる足湯があり、チェックイン前や出発前のちょっとした時間に旅の疲れを癒すことができます。ラウンジでは時間帯によって様々なドリンクやお菓子が振る舞われ、宿の温かい心遣いを随所で感じることができるでしょう。

食事

夕食は、蔵を改装した個室食事処「壺中天」でいただく和食会席。北海道の豊かな大地と海が育んだ旬の食材を、料理人が一品一品丁寧に仕上げます。派手さはありませんが、素材の味を最大限に引き出した、心と体に染み渡るような優しい味わいが特徴です。

朝食は、和食膳かビュッフェかを選ぶことができますが、おすすめは個室でゆっくりといただける和食膳。炊き立てのご飯に、焼き魚、出汁の効いたお味噌汁。日本の朝の原風景ともいえる食事が、健やかな一日の始まりを約束してくれます。

サービス

夕食を終え、部屋に戻る途中。
ロビーのラウンジから、パチパチと薪がはぜる音が聞こえてきた。
「暖炉だ。懐かしいな」
子供が小さかった頃、家族で行ったキャンプを思い出し、夫が呟く。
ラウンジでは、スタッフが宿泊客にマシュマロを配っていた。
「どうぞ、炙って召し上がってみてください」
勧められるままに、ふたりで串に刺したマシュマロを暖炉の火にかざす。
「うわ、焦げちゃった」
妻がおどけて笑う。
「こっちのは、うまく焼けたぞ」
夫が差し出したマシュマロは、きつね色で、中から甘い香りがとろりと溶け出していた。
他愛もない、子供のような時間が、夫婦の心を温かく満たしていく。

こんな50代夫婦におすすめ

  • 大規模なホテルよりも、家庭的で温かいおもてなしを求める夫婦
  • 自然の中で静かに瞑想するような、心穏やかな時間を過ごしたい夫婦
  • 地元の食材を活かした、滋味深く優しい味わいの和食が好きな夫婦

アクセス情報

  • 住所:北海道札幌市南区定山渓温泉西4丁目353
  • アクセス:JR札幌駅よりじょうてつバスで約75分、「定山渓湯の町」下車徒歩約3分
  • 送迎:札幌市内より無料送迎バスあり(要予約)

ふたりで紡ぐ、宿の記憶

宿の看板うさぎ「ぬくちゃん」に別れを告げ、宿を後にした。
帰りの車中、妻がぽつりと言った。
「なんだか、実家に帰った後みたいに、心がほかほかしてる」
「わかるよ。あの宿は、そういう場所なんだろうな」
夫はハンドルを握りながら頷いた。
豪華な設備や、特別な料理だけが旅の価値ではない。
スタッフ一人ひとりの笑顔。
さりげなく生けられた野の花。
暖炉で焼いたマシュマロの甘さ。
そうした小さなぬくもりの積み重ねが、何よりも心に残るお土産になる。
「ねえ、あなた」
「ん?」
「また連れてきてくれる?」
「当たり前だろ」
短い返事に、彼の不器用な優しさが滲んでいた。
日常に戻っても、この宿で灯された温かい光は、きっとふたりの心を照らし続けてくれる。

定山渓鶴雅リゾートスパ 森の謌
~森の物語に迷い込む、五感を満たすリゾート体験~

■おすすめポイント(定山渓鶴雅リゾートスパ 森の謌)

  • 森の中に佇む、プライベート感を重視した露天風呂付きコテージ
  • まるで森の収穫祭、ライブ感あふれるディナービュッフェ
  • 暖炉での焼きマシュマロやハープの生演奏など、心豊かな滞在を演出
  • エステや岩盤浴など、女性に嬉しいリラクゼーション施設が充実
  • 細部にまでこだわった、物語性を感じる独創的な空間デザイン

「森の癒し」をコンセプトに、訪れる人を物語の世界へと誘うリゾートホテル。館内の至る所に遊び心が散りばめられ、滞在中は常に新しい発見と喜びに満ちています。アクティブに、そして優雅に、ふたりの時間を楽しみたい夫婦にぴったりの一軒です。

客室

夫婦だけの特別な時間を過ごすなら、森の中に点在する露天風呂付きのコテージが最適です。メゾネットタイプの客室は、リビングとベッドルームが分かれた贅沢な造り。リビングから続くウッドデッキには専用の露天風呂が備えられ、定山渓の森と一体になるかのような湯浴みを心ゆくまで楽しむことができます。

客室露天風呂の時間

リビングの大きな窓を開け放ち、ウッドデッキへ一歩踏み出すと、ひんやりとした森の空気が肌を撫でます。そこに設えられているのは、ふたりで入っても十分な広さの露天風呂。白樺や楢の木立に囲まれた湯船は、まるで森の泉のよう。鳥のさえずりをBGMに、木漏れ日を浴びながら湯に浸かる時間は、まさに至福のひとときです。

夜には満点の星空が頭上に広がり、昼間とはまた違う幻想的な雰囲気に包まれます。聞こえてくるのは風が木々の葉を揺らす音だけ。都会では決して味わうことのできない、深い静寂と解放感が、心と体をゆっくりと解き放ってくれます。自然の息吹を感じながら、ふたりだけの濃密な時間を過ごせる空間です。

共用風呂

森の光がたっぷりと差し込む、開放的な大浴場も魅力です。大きな窓からは、四季折々の森の景色を眺めることができ、内湯にいながらにして森林浴気分を味わえます。もちろん、露天風呂も完備。岩風呂に身を委ねれば、定山渓の豊かな自然に抱かれるような心地よさを感じることができるでしょう。

湯上がりには、リラクゼーションラウンジで寛ぎのひとときを。身体の芯まで温まった後は、デトックスウォーターで喉を潤し、静かに流れる時間の中に身を任せる。そんな何気ない時間が、旅をより豊かなものにしてくれます。

食事

「森の謌」のハイライトとも言えるのが、ディナービュッフェ「森ビュッフェ」です。森の動物たちが集うパーティーをイメージした空間には、和洋中の彩り豊かな料理がずらりと並びます。オープンキッチンではシェフが腕をふるい、できたての料理が次々と提供されるライブ感も楽しみの一つ。

北海道産の新鮮な野菜や魚介、肉料理など、どれから食べようか迷ってしまうほどの種類の豊富さ。一品一品が丁寧に作られており、ビュッフェの概念を覆すほどのクオリティです。デザートコーナーには、パティシエ特製の美しいスイーツが並び、最後まで飽きさせません。

サービス

ラウンジの中央で、赤々と燃える暖炉の炎。
その前で、小さな子供たちがマシュマロを焼いてはしゃいでいる。
「私たちも、やってみない?」
妻が悪戯っぽく夫を誘う。
「いい年して、恥ずかしいだろ」
照れながらも、夫の口元は緩んでいる。
炎にかざしたマシュマロが、甘い香りを立てて少しずつ膨らんでいく。
ふうふうと冷ましながら一口食べると、外はさっくり、中はとろりとした食感が口いっぱいに広がった。
「おいしい」
妻が子供のように目を輝かせる。
その笑顔を見て、夫も思わず笑みがこぼれた。
暖炉の炎が、ふたりの間に流れる時間を、優しく、そして温かく照らしていた。

こんな50代夫婦におすすめ

  • プライベートな空間と、リゾートならではの華やかな体験の両方を楽しみたい夫婦
  • 美味しいものを少しずつ、好きなだけ味わいたいグルメな夫婦
  • 日常を忘れ、物語の主人公になったような非日常感を満喫したい夫婦

アクセス情報

  • 住所:北海道札幌市南区定山渓温泉東3丁目192
  • アクセス:JR札幌駅よりじょうてつバスで約60分、「定山渓大橋」下車徒歩約3分
  • 送迎:札幌市内より無料送迎バスあり(要予約)

ふたりで紡ぐ、宿の記憶

ハープの生演奏が流れるラウンジで、チェックアウト前のコーヒーを飲んでいた。
今回の旅は、いつになく妻がはしゃいでいたように思う。
ビュッフェでは目を輝かせながら何度も皿を取りに行き、暖炉の前では少女のようにマシュマロを頬張っていた。
「楽しかった?」
夫が尋ねると、妻はこくりと頷いた。
「ええ、とっても。なんだか、忘れていたものをたくさん思い出した気がする」
「忘れていたもの?」
「そう。美味しいものを食べて、ただ笑う時間。あなたとふたりで、子供みたいに過ごす時間」
そう言って微笑む彼女の横顔は、出会った頃と何も変わらないように見えた。
子育てに追われ、仕事に追われ、いつの間にか心の引き出しの奥にしまい込んでいた、宝物のような時間。
この森の宿は、その引き出しの鍵をそっと開けてくれたのかもしれない。
「また来よう。今度は、あのパティシエのケーキを全種類制覇しような」
夫の言葉に、妻は嬉しそうに笑った。

厨翠山
~「食」を愛でるふたりのための、美食のオーベルジュ~

■おすすめポイント(厨翠山)

  • 食に特化した、全14室のプライベートな美食宿
  • 目の前で調理が進む、ライブ感あふれるカウンターダイニング
  • 北海道の旬の食材を知り尽くした料理長が織りなす創作和食
  • 全室に定山渓の景色を望む、源泉かけ流しの展望風呂を完備
  • ラウンジでのフリードリンクや夜食など、充実したおもてなし

宿の名前にある「厨(くりや)」とは、厨房のこと。その名の通り、「食」を旅の最大の目的とする美食家たちのために創られた、温泉付きのオーベルジュです。目の前で繰り広げられる料理人の鮮やかな手仕事と、北海道の恵みを五感で味わう体験は、忘れられない記憶となるでしょう。

客室

客室はわずか14室。全室に、源泉かけ流しの展望風呂が備えられています。華美な装飾を排したシンプルな空間は、これから始まる「食」への期待感を高めるための舞台装置。窓の外に広がる定山渓の自然を眺めながら、静かに流れる時間に身を委ねることができます。室内に飾られた「食」にまつわる書も、この宿ならではのこだわりです。

客室温泉の時間

この宿の客室に備えられているのは、厳密には露天風呂ではありません。しかし、窓を全開にすれば、まるで半露天風呂のような開放感を味わえる、大きな展望風呂です。ヒバの木枠が心地よく香る湯船に身を沈めれば、ガラス一枚を隔てて、定山渓の森が目の前に迫ります。

それは、プライベートな空間で、誰にも気兼ねなく、心ゆくまで湯と景色を楽しんでほしいという宿の哲学の表れ。熱くなったら窓辺で涼み、また湯に浸かる。そんな自由な湯浴みができるのは、客室風呂ならではの特権です。夕食への期待に胸を膨らませながら、まずは極上の湯で、旅の疲れをゆっくりと癒してください。

共用風呂

こちらの宿には、大浴場などの共用風呂は用意されていません。それは、全14室の客室すべてに備えられた専用の展望風呂で、誰にも気兼ねすることなく、ふたりの時間を心ゆくまで楽しんでほしいという、宿の哲学の表れです。移動の手間もなく、好きな時に好きなだけ、自分たちだけの湯浴みを満喫する。これ以上ないほどの贅沢が、ここにはあります。

食事

この宿の真髄は、オープンキッチンのカウンターダイニングでいただく夕食にあります。宿泊客が一斉に席に着き、目の前で料理長や板前が腕をふるう様は、まさに食の劇場。食材が美しく切り分けられ、焼かれ、盛り付けられていく。その音、香り、そして熱気が、五感を刺激し、食欲を掻き立てます。

供されるのは、北海道の旬を知り尽くした料理長による、独創的な創作和食。一皿ごとに、食材の産地や調理法へのこだわりが丁寧に説明され、料理への理解が深まります。料理に合わせて塩を使い分けるなど、細部にまで宿る職人の魂を感じながら、至福のディナーを堪能してください。

サービス

食事が終わり、部屋に戻ろうとすると、妻が小さな声で言った。
「あなた」
「どうした?」
「料理長さん、格好良かったわね」
真剣な眼差しで食材と向き合い、無駄のない動きで料理を仕上げていく姿。
その職人としての佇まいに、妻は心惹かれたようだった。
「そうだな。自分の仕事に、あれだけ誇りを持っている人は素敵だな」
夫も同意する。
ラウンジでは夜食として、小さなおにぎりが用意されていた。
「まだ食べるのか?」
夫が呆れたように言うと、妻はにっこり笑った。
「だって、お米もすごく美味しかったんですもの」
最高の料理は、最高の会話を生む。
食を通じて、ふたりの心は満たされていた。

こんな50代夫婦におすすめ

  • 旅の目的は、何よりも「美味しい食事」だという美食家の夫婦
  • 料理人が目の前で腕をふるう、ライブ感のある食体験に興味がある夫婦
  • 全14室というプライベートな空間で、静かで上質な時間を過ごしたい夫婦

アクセス情報

  • 住所:北海道札幌市南区定山渓温泉西3丁目5番地
  • アクセス:JR札幌駅よりじょうてつバスで約75分、「定山渓第一ホテル前」下車
  • 送迎:札幌市内より無料送迎バスあり(要予約)

ふたりで紡ぐ、宿の記憶

カウンターの端の席で、静かに食事が進んでいく。
目の前では、料理長が真剣な表情で天ぷらを揚げていた。
「次は、お肉ですね」
妻が囁く。
献立を真剣に読み込むその横顔は、まるでテスト勉強をする学生のようだ。
「本当に美味しそうに食べるなあ、君は」
夫が言うと、妻は少し照れたように笑った。
「だって、こんなに心のこもったお料理、久しぶりだもの。作ってくれた人の顔が見えるって、素敵なことね」
そうだ、と夫は思う。
いつからだろう。
ふたりで食卓を囲んでも、テレビを見たり、それぞれがスマートフォンを眺めたり。
「美味しいね」の一言さえ、交わさない日もあったかもしれない。
目の前の一皿に集中し、その味について語り合う。
ただそれだけのことが、こんなにも豊かで、幸せな時間なのだと、この宿は教えてくれた。
最後のデザートが運ばれてきた時、夫は妻に言った。
「家に帰ったら、俺が何か作るよ」
妻は、最高に美しい笑顔で頷いた。

章月グランドホテル
~渓谷の絶景と、心づくしのおもてなしに癒される宿~

■おすすめポイント(章月グランドホテル)

  • 客室の窓一面に広がる、息をのむような豊平川の渓谷美
  • 最上階に位置する、源泉かけ流しの温泉付きプレミアムスイート
  • はちみつバイキングなど、ユニークで心温まるラウンジサービス
  • 地産地消にこだわった、目にも美しい創作和食会席
  • 創業90年近い歴史が培った、安定感のある上質なおもてなし

定山渓温泉の中でも、特に渓谷の眺めが美しい場所に佇む老舗ホテル。一歩足を踏み入れると、大きな窓から望む絶景がゲストを迎えてくれます。長年愛され続けてきた理由は、その景色だけではなく、随所に感じられる心尽くしのおもてなしにあります。

客室

特別な記念日を祝う旅なら、最上階に一部屋だけ用意された「プレミアムスイート」がおすすめです。約100㎡の広々とした空間には、リビング、和室、ツインベッドルーム、そして源泉かけ流しの展望風呂が備えられています。大きな窓からは、定山渓の四季折々の渓谷美を独り占めする、この上ない贅沢を味わうことができます。

客室露天風呂の時間

最上階のスイートルーム、その中央に設えられた展望風呂の窓は、まるで一枚の絵画を切り取る額縁のようです。眼下にはエメラルドグリーンに輝く豊平川の流れ、そして手を伸ばせば届きそうなほど間近に迫る、緑豊かな木々。湯船に体を沈めると、視界には空と緑だけが広がり、まるで大自然の中に浮かんでいるかのような感覚に包まれます。

ここは、誰にも邪魔されることのない、ふたりだけの特等席。季節の移ろいを肌で感じながら、ゆっくりと湯に浸かる。春には芽吹き、夏には深い緑、秋には燃えるような紅葉、冬には静寂の雪景色。訪れるたびに違う表情を見せてくれるこの場所で、ふたりはこれから先の季節も、共に重ねていくことを静かに誓うのです。

共用風呂

広々とした大浴場からは、昼は陽光にきらめく渓谷を、夜はライトアップされた幻想的な景色を眺めることができます。特に、川面にせり出すように造られた露天風呂は開放感抜群。川のせせらぎを聞きながら浸かる温泉は、日々の疲れを優しく洗い流してくれます。

湯上がりには、プレミアムラウンジ「章月倶楽部」へ。ここでは、時間帯に応じて様々なサービスが提供されます。世界の珍しいはちみつをクラッカーやヨーグルトと共に楽しむ「はちみつバイキング」や、湯上がりの一杯に嬉しい生ビール、夜食のにゅうめんなど、そのおもてなしの多彩さに驚かされるでしょう。

食事

夕食は、個室の食事処でいただく創作和食会席「三日月膳」。料理長が厳選した北海道の旬の食材を、一品一品丁寧に仕上げた料理が並びます。目にも鮮やかな前菜から始まり、新鮮なお造り、とろけるような白老牛のステーキなど、北海道の味覚を存分に堪能することができます。

器や盛り付けにもこだわりが感じられ、まるで芸術作品を鑑賞するかのような楽しさがあります。ふたりのペースに合わせて、ゆっくりと料理が運ばれてくるのも嬉しい配慮。プライベートな空間で、心ゆくまで美食の時間を楽しんでください。

サービス

ラウンジの一角に、小さなテーブルと数種類の瓶が置かれている。
「はちみつバイキングですって。珍しいわね」
妻が興味深そうに覗き込んでいる。
アカシア、クローバー、そしてコーヒーの木から採れたという珍しいものまで。
「どれがいいかな」
「全部試してみたらどうだ?」
夫の言葉に、妻は嬉しそうに頷き、クラッカーに少しずつはちみつを乗せていく。
「これ、あなたも食べてみて。花の香りがする」
差し出されたクラッカーを、夫は少し照れながら受け取った。
ほんのりとした甘さが口の中に広がる。
宿が用意してくれた小さな仕掛けが、ふたりの間に甘くて温かい時間を運んできてくれた。

こんな50代夫婦におすすめ

  • 何よりも客室からの眺望を重視し、絶景に癒されたい夫婦
  • ラウンジなどで提供される、ユニークなおもてなしを楽しみたい夫婦
  • 老舗ならではの、安定感と品格のあるサービスを求める夫婦

アクセス情報

  • 住所:北海道札幌市南区定山渓温泉東3丁目239
  • アクセス:JR札幌駅よりじょうてつバスで約60分、「定山渓大橋」下車徒歩約1分
  • 送迎:札幌市内より無料送迎バスあり(要予約)

ふたりで紡ぐ、宿の記憶

チェックアウトを済ませ、ロビーの大きな窓から最後の景色を目に焼き付けていた。
この窓から、同じ景色を何十年も眺めてきた人たちがいるのだろう。
ホテルが刻んできた時間と、ここを訪れた数えきれないほどの夫婦の物語に、ふと思いを馳せる。
「絶景だったな」
夫が、ぽつりと言った。
「ええ。目に焼き付いて、離れないわ」
妻が応える。
「君みたいだな」
「え?」
突然の言葉に、妻が驚いて夫の顔を見る。
彼は少し照れたように視線を逸らし、
「いや、なんでもない」
とだけ言った。
結婚して三十年。
今さら、気の利いた言葉など出てこない。
でも、その不器用な一言だけで、妻の心は十分に満たされていた。
この景色を見るたびに、きっと今日のこの瞬間を思い出すだろう。
ふたりの記憶に、また一枚、美しい風景画が加わった。

まとめ|さあ、ふたりの時間を紡ぐ旅へ

今回は、札幌の奥座敷・定山渓温泉で、50代の夫婦が心から寛げる「露天風呂付き客室」を持つ宿を5軒、厳選してご紹介しました。

  • 定山渓第一寶亭留 翠山亭:伝統と革新が融合した、知的好奇心も満たされる宿
  • ぬくもりの宿 ふる川:まるで実家のような温かさに包まれる、心安らぐ宿
  • 定山渓鶴雅リゾートスパ 森の謌:森の物語の主人公になれる、エンターテイメント性あふれる宿
  • 厨翠山:食を愛するふたりのための、ライブ感満載の美食宿
  • 章月グランドホテル:渓谷の絶景と心尽くしのおもてなしに癒される、老舗の宿

子育てが一段落し、ふと隣を見ると、少しだけ髪に白いものが混じり、目元には優しい皺が刻まれたパートナーがいる。長い歳月、家族のために懸命に走り続けてきたふたりだからこそ、今、必要なのは、誰にも邪魔されずに向き合う時間です。

客室の露天風呂に浸かりながら、これまでの道のりを語り合う。美味しい料理に舌鼓を打ちながら、これからの夢を描く。そんな贅沢な時間が、ふたりの絆をより深く、より確かなものにしてくれるはずです。

さあ、次の休日は、ふたりの物語に新たなページを刻む旅へ出かけてみませんか。


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